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Re: 白雪姫はりんご嫌い / 短編 ( No.294 )
日時: 2010/08/04 16:57
名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: L0k8GmDX)

 私と彼の小指に結ばれた赤い糸は切れない程頑丈で、誰にも負けないと思っていた。だけどそれは私の馬鹿みたいな妄想で、現実は私を置いて先に進んでしまっていた。

 空が橙色に染まり始める。教室の時計は四時半を指し、電気が消えているため教室内も橙色の光を受け、その色に染まる。普段使っている机が、やけに眩しい。
「柚月、別れよう」
 教室に響き渡る、少し掠れて上ずった彼の声が私の鼓膜を揺らす。聞きたくなかった言葉、だけど心のどこかで分かっていた言葉。
「……何で?」
 喉の奥からやっと搾り出した言葉はやけに震えていて、何か泣き出しそうだった。実際私は涙目になっていて、少し何か言われるだけで泣いてしまいそうだった。でも私は顔を背けているため、彼はそんなことに気付かず言葉を紡ぐ。
「……もう受験生だし、恋愛なんかに感けている場合じゃないだろ俺たち」
 ——とってつけたような理由だった。絶対本心じゃないんだってすぐに分かる。そんな理由で、好きな人と別れようなんて思わない。どうして、理由を教えてくれないんだろう。
「……受験で別れるくらいなら」
 さっきまでと違い、私の声には少し怒りが込められていた。
「最初から付き合ったりしないでよ」
 ヒステリーに叫ぶとかはしなかったけど、そうしたい気分だった。零れ出た涙が頬を伝う。少し驚いたような顔をした彼はしばらく唖然としていたけど、すぐに先ほどまでと同じ表情に戻して「ごめん」と謝った。何を謝ってるのか、さっぱり分からない。
 上手くいっていたはずだった。何も心配なことはない、きっと傍から見ても仲の良いカップル。馬鹿だとは思われたくなかったので、イチャイチャはしなかったけどそれでも十分満たされていた。なのに何を間違えたのだろう。何が違っちゃったの?
 彼があまりにも寂しそうな顔で立ち尽くすので、見ていられなくなって教室を飛び出した。廊下には人気はなく、教室同様橙色の光が差し込んでその色に染まっている。廊下は走っちゃいけませんなんてよく言われるけど、私は突き当たりまで走りそして座り込んで泣いた。声は出なかった、ただ嗚咽だけがもれた。切れないと思っていた赤い糸は意外にも軟弱で、もうきっと私の小指には何もついていない。

(切れないと思っていた赤い糸)

「失恋でお題を五個」より