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Re: 白雪姫はりんご嫌い / 短編 ( No.303 )
日時: 2010/08/01 14:56
名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: L0k8GmDX)


 それは夏休みのこと。
「てれれれってってってー」
「ドラクエのレベルが上がったときの音を歌うのはやめてくれないかな、笑いそうになる」
 そう、寝そべって携帯ゲーム機でドラクエをやっている幼馴染——鈴名に言う。鈴名は不服そうに「いいじゃん別にーこれでアリーナのレベルが五十五になったよー」とか俺には到底理解出来ないことをぶつぶつと言う。
「っていうかさ、ドラクエやるなら自分の家でやればいいじゃん。何でわざわざ俺の部屋に来たわけ?」
 鈴名は花柄のワンピース姿でふらふらと俺の部屋に入ってきたかと思うと、床に寝そべり携帯ゲーム機を自分のポケットから取り出して「ドラクエやるから邪魔しないでよ!」とか言って——今に至る。幼馴染で、親同士も異常な程仲が良いため、勝手に家に入ろうが何しようが何も言われないのだ。所謂、家族同然の仲。

「うわっまたクリフトが死んだ! やっぱだめなのかな? でも呪文使えるのが一人はいないとな……」
 ぶつぶつと何かを言っているが、俺はそれを無視して自分の机に向かって宿題をする。とりあえず理科と社会と数学は終わったので、英語の単語練習と国語のワークを進めることをしなければいけないのだ。
「いいやっ! ここで主人公“スズナ”ザオリクの呪文! クリフトは生き返った!」
 もう今では鈴名のそんな声が、心地良いとはお世辞にも言えないBGMだ。
「……ねえ直哉」
 鈴名が俺の名前を呼ぶ。俺は何? と声だけ返事をして、鈴名の方は見ない。

「……生き返る呪文を、あたしが覚えたら。お兄ちゃんは生き返るかな?」
 ぴた、と英語の単語をひたすら書いていた自分の右手が止まったことに気がついた。鈴名の顔は見ていないので、今どんな表情をしているのかは分からない。だけど。
 鈴名の兄が亡くなったのは三年前の、ちょうど夏休みの頃。交通事故だった。蝉がうるさい、公園の前の道で。

 鈴名はしばらく黙り込んでいたけど、少し経つと「ごめんね! しんみりしちゃったねーあたしはドラクエに専念するから直哉は宿題に専念してくれーそしてあたしに見せてね」と軽快な笑い声をあげた。それが少し、可哀想だなんて思ってしまった。

「鈴名」
 そう呼ぶと鈴名は「何ー? 反論は受け付けないんだぜ」と明るい声調で言う。
「もし、鈴名が人が生き返る呪文を覚えたとしても、お兄さんはそんなこと望んでないと思うよ」
 鈴名は声をつまらせる。時が固まった気さえした。そして「……分かってるよ馬鹿……」と鈴名らしくない震えた声を絞り出すように出した。きっと今、鈴名は泣いてるんだと思う。だけど俺は宿題に専念することを命令されたし、きっと鈴名もそんな顔を見られたくないだろうから俺は気付かないふりをした。

(夏ときみ)

ドラクエ楽しい、ちなみにこの小説に出てきたドラクエシリーズは4です。ってどうでもいい情報^o^