コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 白雪姫はりんご嫌い / 短編 ( No.306 )
- 日時: 2010/08/01 17:08
- 名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: L0k8GmDX)
きっと彼から見たらあたしは“クラスメイトその一”程度の認識。ドラマで言えばエキストラ、小説で言えば主人公の友達の名前しか出てこない姉とかそのくらいの立ち位置にしかいれてないんだと思う。あたしは学校の部室の窓から外を眺めて、溜息を一つついた。
あたしの学校の野球部は結構強くて、目標は甲子園出場で過去何度か行ったことがあるらしい。そしてエースでもある和田郁人君は格好良いし野球も強いので、男女両方から人気がある。そしてあたしはそんな和田君に恋していた。そして高校三年生になった今年、奇跡的に和田君と同じクラスになることが出来たのだ。
——だけどすぐに「やっぱり他のクラスが良かった」と後悔したのだ。和田君はやっぱりクラスでも人気者で、だけどそれを鼻にかけることなくチャラチャラもしていないから、それはモテモテだったのだ。そして和田君にはお似合いすぎて眩しいくらい、素敵な彼女がいたのだった。彼女は陸上部の部長で、スラッとした足が凄く綺麗な可愛い女の子。嫌なところなんて一つも無いような性格で、やっぱり素敵な人には素敵な彼女がいるんだと、涙が溢れてくるのを必死に抑えた。
あたしは美術部に所属していて、部室のある場所から校庭がよく見えるのだ。野球部の練習している姿も、和田君が掛け声を上げているところも、可愛い彼女が校庭を凄いスピードで駆け抜けていくさまも。
その度叶わない恋を思って泣くのだ、馬鹿みたいに。じゃあ見なければ良いのにね、和田君のことなんて。想わなければいいのに。心の中のもう一人の自分がそう言うけれど、そんなこと出来ないのだ。和田君は凄く素敵で、好きという感情を捨てることなんて出来やしないのだ。
そんな矛盾にあたしは今日も泣く。一人で、誰にも気付かれずに目を赤く腫らしながら。和田君もその彼女も、あたしのことなんてきっと知らずに幸せを噛み締めているんだ。そしてその二人のことを憎めず、ただただ切なくなる。
(嫌いになれない彼)
お題提供:ちかさん「野球部に恋する女の子の、とびっきり切ない話」