コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 白雪姫はりんご嫌い / 短編 ( No.309 )
日時: 2010/08/02 15:20
名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: L0k8GmDX)


 好きです、中学生のときから好きでした。
私の唇から零れ出た言葉に、彼は目を丸くした。夕暮れの公園、もう昼間は騒がしいくらいいる子供も家に帰り、静まり返っている。木に止まった蜩が寂しげに鳴いていて、どことなく切なくなった。金属で出来ているアスレチックやブランコ、滑り台などが空の色に染まり橙色に光っているのを見て綺麗だな、なんて思う。
「……ごめん。お前のこと、そういう目で見たことがない」
 少し掠れた彼の声が鼓膜を揺らした。分かってた、分かってたよ心のどこかでは。だけど想いを伝えれば何かが変わるんじゃないかって馬鹿みたいに期待してた。そんな期待も、粉々に打ち砕かれてしまったんだけど。
「そっか、ありがとう」
 精一杯頑張って笑顔を作った。きっと作り笑顔だってこと、彼は気付かなかっただろう。彼は私に申し訳なさそうな笑顔を見せて、背を向け去っていった。
 彼の背中が見えなくなるまで、私は呆然と立ち尽くしていた。そして見えなくなると、抑えていたものが一気に溢れ出し、止まらない。ぽたぽた、涙の跡が地面に残る。灰色の砂が、濃い灰色になっていくのをただただ見ていることしか出来ない。それもすぐ滲んで、モザイクがかかったみたいになってしまう。

 この世界は不公平だ。こんなに好きな気持ちがあっても、伝えても、相手に届かないなんて。ずるい、ずるい。そう思うと余計に泣けてきて、思わずその場にしゃがみ込んだ。嗚咽は不思議と漏れない。ただ涙だけが漏れていく。
 滑り台もアスレチックも蜩も何もかも滲んで見えない。何も、何も。何だか今の私の心の中を表しているようで嫌だった。
 そして頬を伝って口の中に入り込んできた涙は、しょっぱくて。そして少しだけ苦かった。

(涙の味)

失恋でお題五個より