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Re: 白雪姫はりんご嫌い / 短編 ( No.320 )
日時: 2010/08/05 19:29
名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: 2fGMg0kq)


 クラスの他の女子と比べて、相坂玲が私に話しかける割合がかなり高かったから「もしかして私のことを少しでも意識してくれているんじゃないか」なんて期待していたこともあった。自意識過剰も良いところだけど、私は本気だったのだ。だから相坂と、少し話しただけでもその日一日は幸せに染まっていたし、一度も話せない日があると“私、相坂に何かしたかな……”と不安になったりした。本当馬鹿だと思う、我ながら。

 その日は隣の県かどこかで大雨洪水警報が出された次の日で、私の住んでいるところもそれはそれは大雨が降り、校庭や道路がグシャグシャになっていて部活が中止だと顧問の先生から知らされた。私は相坂と同じ、陸上部に所属していて部活の話題なんかで話すことだってあった。
「相坂ー今日部活無いって」
 そう先生から言われたことを伝言すると、相坂は少し目を大きくさせ「まじで!?」と顔を輝かせた。
「そんなに部活嫌だったのかよ……」
 そう言うと相坂は「だって何キロも走ってたら吐き気してくるし、顧問の竹沢はうるさいし嫌じゃん。しかも俺の前走ってたやつのスパイクが太ももに刺さって、縫ったことあって軽くトラウマ」と笑った。笑い事じゃないだろ……と呆れた顔をすると、相坂は「いやいや! 笑っちゃうくらい痛かったんだって!」と何でか知らないけど弁解した。そんな様子が可愛いなあ、と笑ってしまう。そしてそれと同時にやっぱり相坂のこと好きだなあ、なんて思ってしまうのだ。もしかしたら相坂も、私のことを少しくらい意識してくれているかもしれない。
 ——そう思っての告白だった。

 校門前、もう時計の針は四時半をまわっていて下校する生徒はもういない。体育館内の部活や、雨で使えない校庭の代わりにロータリーなんかを使用している部活が多いからだと思う。
「好き」
 胸の奥から熱い何かがにじみ出てくるような、そんな不思議な感覚に陥る。——あ、私今告白したんだ。そんな他人事みたいなことを考えてしまうくらい、私は多分緊張していたんだと思う。
「……上田?」
 相坂が私の名前を不思議そうに呼ぶ。わざわざ部活の無い日に『正門の前に来て』なんて呼び出されて、そしていざ来てみたら告白された……なんてそりゃあ驚くよね。
「好き……です」
 自分の唇が驚くほど震えていることに気付く。それと足も。相坂はきょとんとした顔で私も見つめ、そして目を見開く。そして告げられた「……ごめん。上田のこと友達としてしか見れない」彼の声も少し震えていた。
 ——ああやっぱり。心のどこかでそう言った自分がいた。どうして。だって私はきっと彼は私のことを意識してくれているなんて想像していたのに。そっか、ありがとう。そう言おうとするのに、声に出すと泣き出してしまいそうで何も言えない。相坂は右手の人差し指で自分の鼻の頭を掻くと「本当、ごめんな」ともう一度私に謝る。
「……謝らないでよ……」
 やっと出た言葉は馬鹿みたいに強がっていて、私は本当に馬鹿なんだなと実感させた。こんなとき強がってどうする。もう相坂とは、前みたいな関係には戻れないんだって確定したのに。

 何も言わず、背を向けて相坂の前から走り去ろうと思った、のに。
「ありがとうな、上田! 今までどおり仲良くしようぜ!」
 相坂がそんなこと言うから。そんな馬鹿みたいに優しく、こんなことになっても私のことを慰めてくれるから。溢れ出た涙が頬を伝った。本当に、私は馬鹿だ。

(募る想いに反比例する)

失恋でお題五個より