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Re: 白雪姫はりんご嫌い / 短編 ( No.327 )
日時: 2010/08/08 18:55
名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: zFyt/1.A)


 スニーカーで地面を蹴ると、乾いた音が響いた。眩しいので、目を細めて上を向くとまるで濃い絵の具で塗りたくったような青い空が広がっている。ジリジリと照りつける太陽の日差しが熱過ぎて痛い。コンクリートも熱を持って、道を見渡すと陽炎がゆらゆらとしていた。
 “五十点以下の点数を取った物は夏休みの補習に強制参加!”と銘打たれた数学の授業中行われた小テストで、あたしは四十九点という限りなく惜しすぎる点数を取ってしまったため、こうして嫌々朝八時に起きて学校に来なければいけなくなってしまったのだ。
「もう最悪……」
 独り言を呟きながら学校の正門前に立つ。確か二週間ぶりの学校だ。懐かしさとかがわくより、面倒臭いなあと溜息をついた。

 昇降口は掃除をしていなからだろうか、砂埃が少したまっていてジャリジャリと音をたてる。それを掃いながら上履きに履き替え、階段をあがる。途中の踊り場に貼ってある、人権標語のポスターは剥がれかかっていて、今にも落ちそうだった。
 補習の行われる三年四組の教室には、もう十人程の生徒が着ていた。仲の良い子を探すけど、一人もいなくてあたしは一人で席に着いた。バックからノートと筆箱を出し、頬杖をついてぼーっとする。多分、今のあたしの顔はさぞかしつまらない! と宣言しているのだろう。実際早く帰りたくてたまらない。数学なんて、一番嫌いな教科なのだ。それなのに、補習に出なくちゃいけないなんて……と溜息がまた出た。

 そのとき、ガラガラと教室の戸が音をたてて開いた。あたしはハッとしてそちらに目を向ける。……入ってきたのは、前原明良だった。明良とは小学校低学年のときに遊んだ記憶があるけど、きっと向こうは覚えていないだろう。幼馴染っていうのだろうか、こういうのを。仮に幼馴染だとしても、よく漫画や小説に出てくるような仲の良い幼馴染ではなかった。
 廊下ですれ違う度、厭味の言い合い。あいつは女子のあたしにも手加減しないし、あたしだって勿論手加減しない。それに何の間違いかしらないけど同じテニス部に入ってしまい、どっちが上手いかをはっきりさせるため、試合をしたことだってあった。結局あたしが負けて(女子なのだから当たり前だ)、明良は意地悪な笑顔をあたしに見せつけてくれたりしたけど。

「げっ……掛川桜……」
 明良はあたしと目が合うなり、そう呟いた。
「朝っぱらからあんたと会うなんて、朝ごはんにカレー食べてる気分よ」
 そう言ってやると、明良は「今日俺、朝ごはんカレーだったけど」とか見当違いのことを言って、あたしを呆れさせた。そして明良は何でだかしらないけれど空いていたあたしの隣の席に座ったのだ。
「何でここに座るのよ、あっち行ってよ」
「うるせーな! この席が一番、クーラーが当たるんだよ!」
 そうなのだ。この教室には、後方中央にクーラーが設置されていて、あたしも風が一番あたる席を選んで座ったのだ。……考えていること一緒だったのか、と泣きたくなった。

(大嫌いな好きな人)1/3