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Re: 白雪姫はりんご嫌い / 短編 ( No.331 )
日時: 2010/08/09 17:36
名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: zFyt/1.A)


 しばらくすると先生が「おおーもう集まってるみたいだね!」とか言いながら教室に入ってきて、ミニタオルで顔の汗を拭いていた。数学の先生は少し太り気味の男の先生で、歳のせいもあるのだろう、最近頭が薄くなってきていることを気にしているらしい。
 補習に来た生徒は十五人で、五十点以下を取った人はそれだけしかいなかったのか……と少し落ち込んだ。ちなみにあたしの学年の人数は百七十人である。
そして先生が数式のびっちりと書かれたプリントを配り、あたしはそれに目を通す。どうやら一学期の復習で、因数分解と素因数分解の問題がかなり多い。まあ、今年は中学三年生で受験も控えているということもあり、苦手をなくしておこうというのが先生の考えだろう。
「あー全然分からんー」
 明良はそう言ってシャーペンを指でくるくると回す。
「馬鹿なことしてないで問題に手をつけてみたらどう?」
 そう言うと明良は眉を吊り上げて「うるせえ馬鹿っお前もわかんないくせに!」と言い返してきた。
「何!? 一生懸命問題を解こうともしていない人間にそんなこと言われたくないんだけど! あたしはもう五問といてるんだよねっ」
 だから嫌だったのだこいつの隣は。元々嫌いな数学を、嫌いな奴の隣で解いたらそれはそれはつまらないことこの上ない。あたしは明良の存在を無かったことにして、シャーペンを走らせた……つもりだったけど、分からない問題が多すぎてシャーペンを動かす手が止まり気味だ。
 クーラーの効いた教室はとても快適で、凄く涼しい。ふと窓の外を見ると、青い空が広がっている。外で見るのと室内で見るのとじゃ全然違うなーと思わずぼーっとしてしまう。
「なあ掛川」
 明良が不意にあたしの名前を呼ぶ。
「何?」
「勝負しようぜ、勝負! どっちが先にこのプリントを解けるか! 負けたほう、帰りにジュース奢りな! じゃあ、よーいスタート!」
 明良はそう言い放ち、くるくると回していたシャーペンをしっかりと持ち直し、数式を解いていく。
「あっいきなりはずるい!」
 そう反論しても明良は聞こえないとでも言うように、あたしの声を無視する。あたしだって負けていられないから間違ってるだろうけど、とりあえず問題を解いていく。カツカツとシャーペンの先がプリントにあたる音が教室中に響き渡る。うるさかったのはあたしと明良だけだったのか。

「終わった!」
 そう先に声をあげたのは明良で、あたしはちょうど最後の問題を解いているときだった。
「おお、前原君、終わったの?」
 先生がそう言って明良の方に歩み寄り、プリントを手に取る。
「じゃあ答え渡すから帰っていいよ」
 先生は笑顔でそう言い、それが感染したように明良も笑顔であたしを見る。
「ジュース、奢りな!」
 いつもみたいな、意地悪い笑顔。あー心底腹立たしい。あたしは一問差で負けて(あのテニスの時のようだ)、こいつのためにジュースを買わなければいけないのだ。
「もう最悪……」
 そう呟いて溜息をついた。

(大嫌いな好きな人)2/3