コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 白雪姫はりんご嫌い / 短編 ( No.336 )
- 日時: 2010/08/10 12:16
- 名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: zFyt/1.A)
帰りも行きと同じように暑く、馬鹿みたいに太陽が照り付けている。もっと最悪なのは馬鹿みたいな賭けのせいでこいつと一緒に帰らなくてはならなくなったことだ。……そういえば家の方向一緒なんだっけ、幼馴染なんだからそうだよね……まあ向こうは忘れてるだろうけど……と心の中でぶつぶつと呟く。
「俺サイダーが飲みたい」
明良はそう言ってあたしの顔を見る。何かむかついたので大袈裟なくらいに顔を逸らした。……というか顔だけは良い、こいつがむかつく。顔は良いのに性格が駄目なこいつが嫌いで嫌いで仕方が無かった。
自動販売機は住宅街の一角にたっていた。マンションや家がたちならび、昼時ということもあるだろう、子供の甲高い話し声がたまに聞こえてくる。
「何だっけ? サイダー? 感謝しなさいよねったく……」
そう言って明良のことを睨むと「とっとと買えよ」と言い返された。何か無性に腹が立つ。
とりあえず千円札を財布から出して自動販売機にいれ、サイダーとあたしが飲む用にオレンジジュースのボタンを押す。ピッという機械音の後に、ガコンッという音がして取り出し口にジュースが落ちてきた。それを取り、明良にサイダーを差し出すと「サンキュー」と、またあの意地悪な笑顔を見せる。
「あれ? 明良ー?」
不意に背後から少し聞き覚えのある女の声がした。振り向くと……確か隣のクラスの佐伯さん、だったと思う。自転車に乗った佐伯さんは、何と言うかとてもギャルっぽい……派手な服に身を包んでいた。
「おお! 里香じゃん!」
何でかしらないけどえっ? って思った。明良が女の子を下の名前で呼んでる。どうしてだろう。あたしは何故かその光景を見たくなくて、顔を背けて手に持ったジュースをじーっと見ていた。
「何? 明良ー彼女? ごめんねアタシ邪魔しちゃったみたいだねっー!」
ケラケラ笑う佐伯さんはそう言って「ばいばい明良!」と言って自転車をこいで去っていった。カラカラ、チェーンとペダルの音が聞こえる。
「……仲、良いんだね今の子と」
ふと、訊ねてみると明良は不思議そうな顔になり、
「誰とでもあんな感じだけど」
と“何でこんなこと聞かれてるんだろう”というような表情で首を傾げた。ざわざわざわ、胸の中がうるさい。暑いというのに、何でか体全体の温度が下がったような気さえした。
「……誰とでもあんな感じなのに……」
あたしとは“あんな感じ”で話してくれないんだね。そう言いたかったのに言葉が詰まる。大嫌いな明良を目の前にして、あたしはかなり動揺してるみたいだ。
「別にお前に関係ねーだろ! もう良いから帰ろうぜ!」
明良はいつもの調子でそう言う。……というか、一緒に帰るのは決定事項なのか。あたしも「別にあんたと関係なんて持ちたくないわよ!」と言い返したかったけど、この胸のざわざわとした正体を知ってしまったから、もう明良のことを今までみたいに見れなくなっていた。
——ねえ、知ってる? 人って簡単に恋に落ちるのよ。
誰だっけ、誰かがそう言っていたのを不意に思い出した。当時のあたしは「嘘つけ、簡単に恋に落ちるんだったら毎日好きな人が変わって大変だろ」なんて思っていたが、今思うとそのとおりだと思う。
「どうした? 掛川、何かさっきから変。きもいのが更にきもい」
明良はそう言ってニヤニヤとあの意地悪い笑顔を見せるから、思わずあたしも笑った。きっとあたしの心は、あたしがこの想いに気付くのをずっと待っていたのだ。
蝉がうるさい、青い空の夏の日。
大嫌いな人が、好きな人に変わった……気がする。
(大嫌いな好きな人)3/3
お題提供:peachさん「ずっと待ってた」「他の女の子といるなんて」