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Re: 白雪姫はりんご嫌い / 短編 ( No.374 )
日時: 2010/10/04 15:03
名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: zFyt/1.A)


 みんな、みんなきえちゃえばいいのに。
かいしゃの女とうわきをしているお父さんも、それに気づきながらなにも言えないで、あたしに八つ当たりするお母さんも。それからあたしも。みんなみんな。
 だけどあたしは“しぬ”ということがすごくこわかった。しぬってことは、自分はいないのにせかいがかってにすすんでくってこと。うまくはいえないけど、とてもこわい。

 一階からお父さんとお母さんのけんかする声が聞こえる。どなりごえ、さけびごえ。何かがゆかにおちてちらばる音。
「うるさい……!」
 うるさい、うるさいうるさい!
あたしはもうふをかぶって目をとじた。いつになったらおわるのだろう。きえたい、きえたい。だけどしにたくない。
 あたしはじぶんのくびをりょうてでしめた。ドクドク、けつえきのながれる音。
あぁ、生きてる。
うれしくてなみだが出た。あたしは一人で泣いた。

 あたしのかなしいクセがついた日。

 *

 小学生の頃は“転校生”という単語を聞くだけで胸が躍ったりしたけど、中学三年生にもなる俺は、自分のクラスに転校生がくると聞いても何も感じなかった。というか、受験もあるこんな時期に転校してくるだなんて可哀想だな、なんて同情したりしていた。まぁ、言ってしまえばあまり期待していなかったのだ。

 だから、転校生だと紹介された美少女が教室内に入ってきたときにはとても驚いた。
色白で陶器みたいに綺麗な肌。手足は細くて、そして適度に長い。そして真っ黒な髪は肩甲骨あたりまで伸びていて、つやつやと光っている。
そんなすべての体のパーツが綺麗に造られている彼女の中で、一番美しいなと思ったのは“目”だった。
長いまつげに縁取られた、色素の薄い瞳。大きなくりくりとした目で、外国の人形を思い出させる。

「……鈴野、恵那」
 透き通った声で彼女がつぶやいた。綺麗な名前だなーなんて彼女のことを見つめていたら、おかしなことに気づく。
 ——彼女の首には、淡いピンクのスカーフが巻かれていたのだ。冬場でも無ければそんな冷え込んでいる日ではないのに、なぜ?

 俺はそんな疑問を持ちながら、ぼーっと見ていた。彼女のことを。
別に一目惚れしたわけじゃないが、気になるのだ。

 転校生と隣の席! だなんて、そんな運の良いことが俺に起こるはずも無く、鈴野恵那は俺の席からだいぶ離れた席を指定され、そこに座っていた。
「みんな、仲良くな」
 先生がそんなことを言い、朝のホームルームが始まった——

(心中ディスティニー)1/3