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Re: 白雪姫はりんご嫌い / 短編 ( No.378 )
日時: 2010/10/08 22:28
名前: 七海 ◆On3a/2Di9o (ID: zFyt/1.A)


 世界に光を感じられない。あたしは“生”を、この世界で感じられない。怖い、怖い。
だから、あたしは自分の首に手をかける。幼い頃からあたしは、この血液の流れる音で“生”を感じていた。

 血のつながりのある家族が大切だなんて、誰が決めたの。そんなの幸せな人間の理論の押し付けだ。
あたしは首を絞めながら、助けてと呟いていたのかもしれない。誰かに救い出してほしかったのかもしれない。

 *

 転校してきて四日、鈴野恵那は完全にクラスで孤立していた。
彼女は見た目が良いため、初日は『どこから来たの?』『どうして転校してきたの?』等と質問攻めにあっていたが、それも最初の十分だけだった。

『うるさい』
 無言で質問をただ聞いていた鈴野恵那は、冷たい声調でそう言い放ち、目の前にいるクラスメイト達を睨み付ける。当然その場にいた人間は固まり、クラス中の空気が凍った。俺はというと鈴野恵那の近くには居らず、友達と少し離れた窓際で話していたが、それでも彼女の声はやけに聞こえてきた。
『馬鹿のひとつ覚えみたいに同じこと聞かないで。あたしがどこから来たか、どうして転校してきたかなんてあんた達が生きていくために必要ないことでしょ? 無駄なことは話したくないの』
 すべてを拒絶するような声色。俺は彼女から視線をそらすことが出来なかった。

 *

「あっやべぇ」
 放課後、昇降口で上履きから土に少し汚れた自分のスニーカーに履き替えようとしていたとき。俺は明日提出の英語のワークを教室に置いてきてしまったことを思い出した。十ページ以上やっていないところがあり、今日徹夜覚悟で終わらせようと思っていたのだ。
「何だよ俊ー忘れ物かよ?」
 真っ黒な髪を多分ワックスではねさせ、それを右手でいじっている原田がそう尋ねてきた。小学生の頃はヤンチャだったけど、こんなにチャラチャラしてなかったのにな、コイツ……と思いながら「英語のワーク忘れた……」と小さな声で言った。
「早く取りに行って来いよ。待ってるから」
 原田はそう言って、昇降口のコンクリートの地面をスニーカーで蹴った。俺は返事をし、スクールバックを原田に預け、駆け出した。

(心中ディスティニー)2/3