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Re: 青春ライン*おい…喧嘩させろ! ( No.38 )
日時: 2010/07/23 06:14
名前: 梓 ◆hRE1afB20E (ID: 8I/v6BBu)

8話




まさに、それが合図だと言ってもよかった。

俺が男を殴り返した瞬間、それは完全な「喧嘩」となった。

俺が殴り飛ばした男が地面に倒れると、周りにいたその周りが一斉に

俺に襲いかかってきた。


…葵に出会ってからというもの、ろくな事がない。

それはきっと、これからも先ずっと同じことなのだろう。

それ即ち、「自由気まま」という俺の理想が

葵という存在によって見事に打ち砕かれたという事を意味している。

————思えば思うほど腹が立つ。

俺は眉をひそめた。

大体何で俺があの女に振り回されなきゃいけねぇんだよ。

何なんだよアイツ。

本当腹立つ。

相当ムカつく。

どれくらいイラつくかって、すげぇイラつくんだよ。


…だから晴らす。

コイツ等で、このやり場のない鬱憤を。



「—————ちっ…」

俺は溜息とともに舌打ちをした。

あのクソ女、アイツがいなけりゃ俺は今頃…

足を怪我したり、逃げ回ったり、かなりの距離歩かされたり…

そして何より、この鬱憤をためる事がなかった。


俺は、強く握った拳を相手の腹にブチ込んだ。

そして、すかさず相手の頭を持ち、俺の膝に思い切り叩きつける。

「———おいっ、くそっ!何やってんだよ…

 ‘アイツのツレ’でもねぇ奴にやられてどうすんだ!?」

俺の反撃を見ていたそいつの仲間の男は、悲鳴を上げるかのようにそう言った。

「ちっ、ミサ校(桜華岬川高校の略)のカス野郎がいい気になりやがって…!」

「———っつってる暇がありゃ、そのカス野郎にかかって来いや」

——グシャッ

俺は、若干それを聞いてイラッとなりながらも、

挑発的にそう言い、そいつの顔面に一発鉄拳を喰らわせた。

「クソ…!‘アイツ’がいなけりゃ手前等の学校くれぇすぐにツブしてやんのによ!!」

「あいつ等が居るからって———ここ数年手前等ンとこにでかい顔されると

 イライラすんだよ!調子乗りやがって…!」


—————あいつ等?

と、

そこで俺は気が付いた。

さっきからコイツ等が言っている“アイツ”とその“ツレ”…

…コイツ等はまるで、そいつ等を脅威と思うような言い方をしている。

———どいつ等の事だ?

コイツ等の話を聞いてると…三年か?


「—————あーあ、さっきアイツにちょーっと痛い目に遭わされたから

 こちとらかなり鬱憤たまってるとこなのによ…

 アイツと同じ高校の、ましてや一年に返り討ちに遭うなんてなぁ」

と、その時、

俺がイライラしながらもそんな事を黙々と考えている時、

その集団のリーダーらしき人物が俺にそう言いながら近づいてきた。

———鬱憤だったら俺のほうが溜まってんだよ…

俺はそいつを睨んだ。

今まで黙って見てたコイツが言うか…

まだ、俺と殴り合いしてた奴が言うのは分る。けど…

「餓鬼が調子に乗りやがって、望み通り俺が————————」

———バキッ!


「…黙れ馬鹿」


と———そいつが俺の声を聞いた瞬間には、

俺の『足』がすでにそいつの顔面を捉えていた。

『…やっぱ喧嘩は殴るよりも蹴りだな』

…問答無用の俺の一閃は、見事なまでに相手の顔面にクリティカルヒット。

そのまま相手は、道に倒れて動かなかった。



*



「————は?逃げられただぁ?」

街のとある一角で、携帯電話に耳を傾けながらその青年は溜息をついていた。

その青年は、黒くクセのある髪をかき上げ、オールバックの髪形を悠々となびかせている。

『そうなんですよ…あと一歩の所で学校の外に逃げられたんです!

 私はただ…東城君が無茶するものだから心配して…』

電話の相手の女の子は、悔しそうにその青年に訴える。

そして電話の向こうの女も溜息をついた。

「…、

 何、俺にその事を報告するって事は———そいつを俺に探せって言いたい訳か」

その青年は全て察した。

「——葵さんよぉ…俺ァお前の便利屋じゃねぇんだ、

 んな事ぁ“帝”か“五十嵐”にでも頼め。電話番くれぇ教えてやるから」

青年は突き放すように電話の相手———新橋 葵にそう言った。

『———…、

 分かりましたよ、そんな酷い事言うなら貴方が他校生と喧嘩してたってチクりますからっ!』

「あー止めろ。俺を退学にする気かお前…」

嗚呼…結局こうなるか。

青年は苦笑を浮かべ、

「あー、分ったよ…探せばいいんだろ探せば。

 学校帰るついでに探しといてやるから」

諦めて再度俺がため息をつきそう言うと、

葵は嬉しそうに『ありがとうございます』感謝の言葉を述べた。


と、それと同時くらいに青年の視界の端に“何”が入ってきた。

…お、喧嘩か?

青年は興味本位でその光景を眺めた。

『…で、その東城君は前に言った通り紅髪で————』

ん?…紅?

…まさか、な…

俺は心の中で言った。

いやだって…紅髪の奴が目の前で喧嘩してるもんだからさ…。

『———で、確か制服は変に崩して着てました』

…喧嘩してるからか知らねーけど、目の前の紅髪…心なしか制服崩してるし。

『あと、胸に桜華岬川高校1年の校章してますよ』


———と、

そこで青年は本日何度目かの溜息をついた。

『おいおい、ビンゴかよ…』

青年は思わずまた苦笑を浮かべた。

あの喧嘩してる紅髪…例の校章つけてるじゃねぇか。

しかも何か足押えてるし…例の怪我か?


…ん?

と、青年はその時何かに気付いた。

———その時、青年の顔つきが変わった。

「…見ぃーつーけた」

『え、早くないですか!?』

青年の目つきは、さっきまでの気だるそうな感じとうって変わって、

凶暴な目つきに豹変していた。


「…葵、しばらく電話出ねーから」

『…え?』

と、青年の言葉を聞き、電話の相手に不安が襲った。

『先輩———いや、薫さん?まさか東城君と喧嘩するつもりじゃあ————』


——ピッ

それを最後に、青年は電話を切ってしまった。



…その青年——薫と呼ばれた人物には葵の声など、すでに耳に入っていなかった。