コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第弐話「変人神様と落ちこぼれ」 ( No.10 )
- 日時: 2010/08/05 15:51
- 名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: 3mln2Ui1)
続きです。読んでくれている読者様がいらっしゃると己を励ましつつ更新。
「何をやっておる?お主」
私は声が聞こえた方向へ顔を上げた。
そこには和風な装束を身にまとったぐるぐる眼鏡を掛けた人が扉に手を掛け、立っていた。ぼんやりと綺麗だなと思った。ぐるぐる眼鏡を掛けてはいるが、肌は驚くほどに白いし顔も整っている。全体的に線が細く、色素の薄い髪は長く後ろで一つに束ねている。腰まであるその髪はきっと光を浴びればもっと綺麗なのだろう。声も中性的なことから目の前の人物は女性であるかと思わせた。それほど綺麗なのだ。女性にしては背が高すぎると思わなくもないが。
っていうかお前か!!扉を思い切り力を込めて開けたの!!
「別に力は込めとらんぞ」
うそつけ。
「嘘ではないぞ」
げ。もしかしなくても、心の声、だだ漏れ!??
「うむ。だだ漏れだな。ちなみに我は『男』だぞ。何故間違える?」
「え?男?」
ええ?こんなに細いのに?
「そうだが?そんなに疑うのならば脱いでやってもいいぞ」
「ぬ、脱がなくてもいいです!!」
冗談じゃないと私はぶんぶんと顔を左右に振った。多分、私の顔は少し赤くなっていると思う。
「さて、来歌とやら。お主はここに弟子入りするつもりか?」
ぐるぐる眼鏡の美人さんは目の前の部屋を指差し、尋ねた。というか私の名前知っていたんだ。私は返事の代わりに頷いた。
「その『ぐるぐる眼鏡の美人さん』というのはよせ。気持ち悪いではないか。我にもちゃんと名はあるのだぞ?」
ぐるぐる眼鏡さんは少し呆れた顔で苦笑した。
「それも却下。お主、わざとやっとらんか?まぁ、よい。我が名は久遠という。よろしくな。万年落ちこぼれ君?」
「!!」
「何故知っている?って顔をしておるな。有名だぞ。お主の名はな」
「ち、ちなみにどんな噂が流れているのでしょうか?」
私は恐る恐る久遠さんに聞いてみた。すると久遠さんは口端を吊り上げ、にやりと笑った。こんなに悪者っぽい笑みを浮かべるぐるぐる眼鏡は他にいないだろう。
「そうだな。一言で言うと史上最悪の成績を誇る劣等生」
「はう!?」
今、さくっと見えない言葉の刃が心に刺さった気がする。思わず胸に手をやる。
「その成績の悪さは学問だけに止まらず、体育や様々な神術などにも及び、習得した神術の数は手で数えるほどしかないとか」
さくさくと刺さる刺さる。泣くぞ。私。
「ま。冗談はさておき。ようこそ。『未来の間』へ」
久遠さんは穏やかな微笑を浮かべ、まだしゃがみこんでいた私に手を差し伸べ、もう片方の手で重そうな扉を開けた。
私は久遠さんの手をとり、立ち上がると部屋の中に入った。
部屋の中は広く、一人二人は余裕で住める位の広さだ。この書類の山がなければ。扉を開けて直ぐに目についたのはひときわ大きな執務机だ。丁度中央よりも奥にある。そして、左右にあの執務机よりも一回り小さな執務机があった。補佐役の人用だろうか。残念ながら両方とも書類の山で埋もれているが。そして、書類の山に紛れてよくわからない年代物の骨董品かガラクタが乱雑に置かれていた。唯一、書類の山がないのは扉から大きな執務机がある部分だけだった。
部屋の様子を一言で片付けるとするならば、混沌とかいてカオスといった方がいいだろう。部屋が立派なだけに悲惨だ。
「しかたなかろう?ここには我しかおらんのだから」
まじまじと部屋の中を観察していた私に久遠さんは呟いた。
「さ、立ち話もなんだから座って話をしようか」
「え?」
ここには応接室にあるような机も椅子もない。まさか、床に座るのだろうか?と私が思っていると、
「神術、『具現』」
久遠さんがそう呟くと彼の目線の先にあった床が盛りあがり何かを形作るかのように動き始め、数秒後には応接室にある様な机と椅子が出来上がっていた。
「すごい・・・・・・」
私は思わず呟いた。術自体は子供の頃に習う簡単なものだが、こうも早くしかもこんなに本物に近いものはなかなか出来ないのだ。
「そこに座るがよい」