コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第弐話「変人神様と落ちこぼれ」 ( No.11 )
日時: 2010/09/08 13:41
名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: 3mln2Ui1)

「そこに座るがよい」
 
 久遠さんに促されるがまま私は椅子に腰掛ける。するとどこからか湯のみが二つ現れ久遠さんと私の前に置かれた。私が驚いた顔をしていると久遠さんが、「精霊に頼んで淹れてもらっただけだ。安心せい」といって笑った。中身は美味しそうなお茶だ。

「そういえば、詳しい自己紹介がまだだったな。我は久遠という。ここでありとあらゆるものの未来を見るのが務めだ。この『未来の間』の主でもある」

「へ?という事は私のお師匠様となる方ですか!?」

 私は驚きのあまり目を丸くした。私のそんな様子に久遠さんは苦笑した。

「なんだ?今更気づいたのか?さっき受付の奴に説明されておったではないか」

 せ、千里眼……。

「千里眼ではないぞ。我は未来を視ることが出来るのでな。それで視たまでよ。ちなみにお主に『お師匠様』と呼ばれることもないだろうな」

「ええ!??それ、困りますよッ!!?」

 思わず身を乗り出した私に久遠さんは話をきけと制した。

「そんなに慌てずともよい。お主の目的は神力強化であろう?」

「はい!もちろんです!!神力強化しないと私、あと九十年しか生きられないんですよっ!!」

 私はここぞとばかりに力説する。

「なるほどな」

「しかも、年をとってお婆ちゃんになっちゃうなんていや!!嫌すぎる!!」

「本音はそこか」

 拳を握り締めて熱く語る私に久遠さんはお茶を啜りつつ、冷静に突っ込む。

「まぁ、お主には我の教え子になってもらう。そちらの方がお主の負担も軽かろう。我も『弟子』はとりたくはないのでな。そこでお主にはもう一度採用試験を受けてもらう」

「え゛」

「安心せい。お主を引き取ることはもう決めておる。しかし、実力を知らぬのでは話にならん。そういう訳で、お主には人の世に降りて三日以内にとある人間の運命を変えてもらう」

「はい??」

 久遠さんが淡々と述べている内容に私の頭がついていけない。え?なに?その重大な内容。

「大丈夫だ。こういう事にうるさい『運命の神』の許可はとうにとってある」

 そういう事じゃないでしょ!!?

「ん?反論は認めるが、拒否は認めぬぞ?善は急げという、さっさと行ってもらおうか」

 久遠さんは有無を言わせない素早い動きで私の腕を掴むとそのまま部屋の端に飾ってあった私の身長よりも大きな鏡の前に来た。

「ええ?いくらなんでも早すぎですよ!!色々と準備をしなくちゃ!」

 私は必死にこの状況から逃れるために口実を並べる。

「何を準備する必要がある?我々神には食べ物は不要だし、怪我をしたならば神術を使えばいいだろう?」

「う゛」

 私が言葉に詰まっていると久遠さんは鏡の前に立った。

「今ここに人界への入り口を開けよ。『開門』」

 久遠さんがそう唱えると目の前のただの鏡の中に映るものが私たちから雲と青空になった。

「うぅ。久遠さんの鬼〜」

「我のことは『先生』と呼べ。お主は教え子なのだから。今からお主にはとある人間の自殺を阻止してもらう。ちなみに二度としないように考えも改めさせるのだぞ」

「はーい……。でも、その人をどうやって見つければいいのですか?くお……じゃない…………先生」

 何事も諦めが肝心なのだ。頑張れ。私。

「その点は大丈夫だ。その人物の目の前に落としてやるからな。説明は以上だ。いってらっしゃい」

 そう言い終ると先生はぐいと物凄い力で私を鏡の中へと押し入れた。

 私は突然空中へと放り出されたので支えを失い、真逆さまに落ちた。

「うっぎゃぁーーーーーーーーー!!!?」

 乙女とは思えない悲鳴を上げながら私はこの青空に落ちていく。