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第肆話「教え子見習い」 ( No.49 )
日時: 2011/02/02 20:58
名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: 5Yz4IUWQ)
参照: 遅れててごめんよ。がんばります

続き。第肆話終わり。どうぞ。




「あの時以上に楽しくなるといいですねぇ」

 凶悪犯罪者だって震え上がるような声音で男は告げた。

 下にいる「未来」を司る神とその教え子へとむけて。










 ぞくりと戦慄にも似た感覚に我はほぼ反射的に振り向いた。しかし、そこには何もなかった。

「?」

「どうしたんですか?先生」

「いや、なんでもない。それよりも山田よ」

 我は少し何もいないはずの空を凝視し、来歌の声で我に返った。まあ、今詮索しても仕方ないため山田に声をかける。

「はい、なんですか?」

「うむ。先程起きたことを他の者に話さないで欲しいのだ。我等は本来この世界にいないことになっておるのでな。もちろん、忘れたいと言うのであれば忘れさせてやるぞ」

 どうする?と山田を促すと、

「わかりました。この事は誰にも言いませんよ」

 即答だった。迷う必要もないと言っているようだった。

「ほう?よいのか?今ならば何も知らないただの一般人になれるのだぞ。それに、知っているだけで我々神の協力者としてかりだされるかも知れぬ」

「そうそう。山ちゃん、普通の人なんだから無理しちゃ駄目だよ?」

 我の言葉に来歌は心配そうに付け足した。山田の不憫さに拍車をかけることには流石にためらわれるのだろう。

 山田はそれにうっと答えと詰まらせたが、それでも決意は変わらないらしく、

「無理に決まっているじゃないですか。貴方達みたいな人達を忘れろなんて。俺は一応これでも貴方達に命を救われたんですよ?命の恩人を忘れろって言うんですか!?そんなの酷いじゃないですか!」

 と一息でまくし立てる。言いたい事を言い終わり、一息で長い台詞をまくし立てたせいか肩で息をしている山田に、

「山ちゃん……」

「山田、お主……」

 このまま感動的な場面に突入するかに思われたが、我と来歌は、

「「喜んでパシリになるとは……」」

 と打ち合わせたように同時に呟いた。

「はいぃ?!」

 素っ頓狂な声を上げ、コントに出ている芸人よろしく山田はずっこける。

 混乱状態にある山田に止めを刺すように我は、

「いやいや、お主がそこまで神を信仰しているとは知らなかったな。なかなかに見上げた根性よ。流石は山田。なあ?来歌よ」

 我のわざとらしい口調に来歌は気づき、頷いた。

「はい!流石だよ!!山ちゃん!」

「え?ちょっ」

 そのまま、ずるずると山田を流すことにする。

「パシリ決定、おめでとう。山田。さて、それについての詳しい話だが……」

「だから、ちょっと待」

「おめでとう!山ちゃん!空から手紙が来るかもね☆」

「人の話を聞けよ!あんたら!!スルーって結構心が傷つくんだぞ。知っているかぁああああ!!」

 山田、全力の突っ込み。しかし、それを我は聞き流す。

「ちなみに空から手紙が来るって言うのは本当だぞ?」

「え?マジ?」

「うむ。協力して欲しい時にな。そう滅多に来る物でもないから、安心するがいい」

「あぁ、そうなんだ。よかったー」

「紙飛行機でくるんだよ。山ちゃん」

 にこにこと笑顔で来歌が付け足す。

 その言葉にギョッと驚愕の表情を浮かべた山田に我は、

「夢があっていいだろう?」

 と言ってやった。

 山田は大きく息を吸い込み、

「そんな夢いるかぁああああァアアアア!!!!」

 渾身(こんしん)の突込みを入れる。その後の山田の突っ込みの嵐は凄かったのは言うまでもない。これだけ元気があるのだから、自殺など馬鹿げた考えは無くなったはずだ。我は心の中で少し安堵の息を吐いた。









 山田の突っ込みの嵐が終わった後、山田と別れとすまし、我と来歌は人の世から神の住まう世界へと戻って来た。こちらの空も夕焼けが美しい時間になっていた。我の『未来の間』にある鏡を使って誰にも見られる事もなかった。見られたら少々厄介なのだ。神という者は人の世など滅多に降りない。特に我のような者は。

 まだ消してない『具現』で出現させた応接室にある様な椅子に我と来歌は腰掛けた。

 お茶を再び精霊に淹れてもらい、来歌がくつろいだところで、

「さて。初めて人を救い、邪《よこしま》に勝利した気持ちはどうだ?」

「え?あれって救ったに入るんですか?」

「一応はな」

 一応自殺を阻止したであろう?と我が言うと来歌がそういえば……と呟いた。

「うーん……。そうですね……。私は難しく考えるのは苦手なんで素直によかったなとかやったー!!ぐらいしか思いませんけど?」

「そうか。まあそれぐらいが丁度いいだろうな。素直な気持ちを忘れるなよ?」

「了解です!」

 笑顔で敬礼する来歌を我は少し眩しく感じ、目を軽く細めた。

「ああ、そうそう。忘れるところだったな。ほれ」

 我は懐から小さなバッチを来歌に軽く投げた。来歌は慌ててそれを受け取った。

「なんですか?これ?」

「『教え子見習いバッチ』だ。それがあれば弟子と同じような権限を持つことが出来るぞ。大抵の部屋には入れるだろう」

「おおっ!RPGみたいですね!ありがとうございます」

 来歌の手の中にある小さなバッチは銀色のひし形で三センチぐらいの大きさだ。中央には漢字で『見』の文字が書かれている。

 来歌はそれを右胸に付け、ご満悦な笑みを浮かべていた。

「では、改めてよろしく。神門 来歌よ。お主は今日より我の教え子見習いだ。精進するがよいぞ」

「はい。私、精一杯頑張ります!!先生ッ!」

 来歌は元気よく頷き、我の手を力強く掴んでブンブンと上下に振った。その若さ特有の必死さが微笑ましくて我は少し笑った。















 この時、心の片隅で感じていた確信めいた予感は悪くも当たる事になる。

 誰もが望まない運命の歯車はゆっくりと回り始めた。

軋んで嫌な音をたてながら。