コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 第伍話「トラブルメーカー」 ( No.52 )
- 日時: 2011/03/08 19:48
- 名前: 神村 ◆qtpXpI6DgM (ID: 5Yz4IUWQ)
- 参照: 土下座。よろしければ今後もお付き合いいただければ幸いです。
続き。五話完結。
「つまり……どん底の人間見れば元気になる?」
千早の突然過ぎる提案に二人は騒ぐのをピタリとやめた。
なぜそうなる?と二人の心が一つになった瞬間だった。
いつも通りに穏やかに始まる朝。今日も頑張るとするかと久遠が山積みの書類を神力で整理していた時。来歌が扉を勢い良くあけ、久遠に大股で近づいてきた。
「先生ッ!!人助けって必要ですよね!」
「は?何を泣きそうになっておる。頭大丈夫か?」
「中身残念ですけど、大丈夫です!それよりも先生ッ、来てください!!」
「中身が残念というのを知っていたとはな、驚きだ」
久遠の嫌味にも動じず(というか聞いていないに等しい)、久遠の腕をむんずとつかむと来歌はそのまま『未来の間』を走って出た。久遠の制止の言葉も来歌は右から左へと抜ける。
久遠はため息を一つ吐き、
「おい!どうでもよいが事情ぐらいは話せ」
「グズッ。そんな余裕はないんですよ!!」
「ああ、これが噂に聞くアレか。トラブルメーカーという奴か。トラブ
ルに巻き込まれるのはよく聞くが、自分で作る奴は稀だぞ」
「来歌ちゃん、ダーッシューー!!」
「聞こえてない、か」
久遠はなんか悟った諦めの声で呟く。来歌に腕をつかまれ来歌共々全力疾走中だ。元々『変人』として名高い久遠はまあ、いいかと今の状況を楽しむ事にした。今更落ちる評判などないに等しい。
もう、暗闇が空を覆い、星々と月の淡い光が照らしている深夜。徹夜組の神々が各自の部屋で黙々と仕事を終わらせようとしている時間。辺りをうろつく神など居なく、昼間の賑やかさとは打って変わって静寂が辺りを支配していた。
執務舎の3階にある『医療の間』で久遠は『医療』の神に会っていた。白を基調としたこの部屋は『医療』の名が相応しく壁側にある棚に薬がズラリと並んでいた。部屋の隅々まで整理整とんがさせており、塵一つさえない掃除が行き届いている感じがした。
「お久しぶりだね」
「ん、まぁな。夜遅くにすまないな」
「それはいいけどさ。随分昔に君に定期的に来るように言ったんだけどね?」
「む……。す、すまない」
言外に、来るって言ったよね?と得も言えぬ威圧感を醸し出す医療の神に流石の久遠もたじろぐ。彼、医療の神は命を粗末に扱うと怖いという噂が有名なのだ。のんきなイメージと穏やかな容姿に騙されてはいけない。
「ボクだって分かっているよ。君は未来を視ることが出来るから、こういう注意は不要だって事ぐらいは」
「おいおい。随分と我を買いかぶっている様だな。我の未来を視るというものが万能ではない事ぐらい、我と同期であるお主なら分かっているだろうに」
「それでも、これまでに一度しか失敗していないだろう?ボクはそれは凄い事だと思うけど」
「ふん。その一度が世界の危機だったとしてもか?」
自嘲的な笑みを浮かべ久遠は問いかける。医療の神は痛々しいものを見たように目を伏せた。その表情は眉は下がり、眉間に皺がよって苦悶の表情になった。
「それは君のせいではないというのに。まだ自分を責めているの?」
「愚問だな。聞かなくても分かっているだろう?」
「そうだね……。君は昔からそういう人だったよね。性格は……まぁ、曲がったと言うかねじれてしまったけど」
諦めと呆れが混じった苦笑を浮かべ、医療の神はため息を吐いた。
「文句を言うな。それよりも、我の検査の結果は?」
「ああ。未来を視ようとしたら物凄い頭痛がして視れなかったこと?」
「そうだ」
「んー……。結論から言うと……」
告げられた言葉を聞いて久遠は目を見開いた。
「ほう、それで?」
「うぅ……。すみません。だって、千早が早く行かないと死んじゃうよ?っていうから……!」
「大丈夫だ。人間って意外に頑丈だったりするぞ?メンタル面的に」
先程久遠は来歌を無理矢理止めて事情を聞いた。人の世に降りる的な事を言ったからだ。流石に久遠が正面きって人の世に降りるのは立場的にまずい。久遠はこう見えて偉い神の部類にあたるからだ。
来歌の話によるととある少女がいじめを受け、今自分の命を絶つか絶たないかの瀬戸際らしい。
「でも。でもッ!」
「仕方ないな……。昨日使ったあの鏡で行くぞ」
久遠はやれやれといった具合で肩をすくめ、来歌の人助けを了承した。
「え゛?」
「なんだ?人助けしたいのだろう。だったら、どんな事でもやるよな?」
来歌は久遠の笑みに今更やらないって言わないよな?という文字が見えた気がした。
「誠心誠意やらせてイタダキマス!!」
シャキッと背筋を伸ばし何故か敬礼をする来歌。
「よろしい」
ああ、またスカイダイビングか……。パラシュートなしの。フフフ……と来歌がぶつぶつと呟いているのを久遠は無視して『未来の間』へ行く。その後に来歌の待ってぇーと言う情けない声が聞こえてくるのは言うまでもない。
昨夜の事を思い出して久遠は苦々しい気持ちになった。
『んー……。結論から言うと……これは呪いだよ。それも、とびっきり強烈なやつだね』
(呪いだろうと関係ない。我は今ある全ての者の為に尽力するまでよ。それが誓いであり、約束だからな)
久遠の瞳に決意の光が宿った。それは誰にも邪魔をさせない苛烈さが僅かににじんだ光だった。
トラブルメーカー。それは騒ぎを起こし、巻き込まれる者。明るさをもってか、決意をもってかで意味は違う。