コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re:     Tears...... ( No.87 )
日時: 2010/08/03 19:05
名前: 美純 ◆dWCUS.kIT. (ID: kQLROmjL)

008

「失礼しま——……って、先生いないのかよ」
チッと舌打ちをして、とりあえずさとをベットに下ろして寝かせた。息がまだ荒い。近くの水道でハンカチを洗い、額に乗せた。これでちょっとはマシになるだろう。
「ったく、何を抱え込んでんだ? さと……」
さとは小さいころからそうだ。悩みや不安はすべて自分で抱え込んで。悲しみの涙も見たことがない。そして、いつも一人で静かに泣く。誰にも話さずに。見つかるまいとして。
今までもそうしてきたのだろう。気丈に笑顔を作って。陰で泣いて。それでまた壊れてしまうんだ。
「相談しろよな……」
寝顔を覗き込む。大人っぽいけど、どこかあどけなさが残る顔立ち。引っ越してきた時最初にさとを見たとき、さとだと理解するのに時間がかかった。
小さいときはおかっぱに近い髪だったのが、腰まであるロングヘアになっていた。なにより、すごくきれいになっていたんだ……。

ガラッ
「あら、名取君? 何か用かしら?」
「先生、さと……いや蒼井が熱出したみたいで」
先生はさとを見てから、体温計を出してきた。そして、さっと脇の下に挟んで体温を見た。
「38度……ちょっと高いわね。あ、二人とも部活入ってないのよね?」
「はい。送るのは俺がしますから」
そういうと、先生はくすっと笑った。思わず怪訝な顔になる。
「責任感が強いのね。でも、私が車を出すから貴方も乗りなさい」
確かに、此処から家まではそれなりに遠い。いくらさとが軽かろうと、俺まで風邪をひいてしまっては意味がない。
「分かりました」
ここは素直に従うほうが筋だろう。


「はい、着いたわよ。家の中に運べる?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
礼をして、さとをおぶった。相変わらず軽い。とりあえず俺んちに運んで、彗さんに迎えに来てもらおう。さとの父親は病気でさとが生まれてすぐに亡くなったらしい。さとの母親は、海外で仕事をしているらしい。
いずれにしろ、彗さんにしか頼れないということだ。彗さんにメールをしておいて、さとを部屋に運んだ。
「……か……で」
「ん? どした、さと?」
ベットに下ろしたら、呟く声が聞こえた。けど、小さくて聞こえなかった。俺が聞いてもスースーと寝息しか聞こえない。
「とりあえず、水持ってこようか。いや、毛布か……?」
優柔不断が、俺の悪い癖。自他共に認めている。気持ちは複雑だけど。
「まあ、タオルを持ってこよう!」
あげく、全く違う選択肢を持ってくるのが名取千早だ。それはまあおいといて。タオルを持ってくるために、さとの寝ているベットから離れた。いや、正確には離れようとした。
ギュッ
「え? さ、さと……?」
さとが、俺の服の裾を握っていたのだ。まださとが寝ているのは言うまでもない。そして、ぎゅっと握ったまま、ぽつりとつぶやいた。

「 ——大地……。行かない……で……」

その言葉はすべてを表していた。さとの悩みも、気持ちも、思い人も。

———全部、全部。



(複雑すぎるよ)