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Re:     Tears...... ( No.92 )
日時: 2010/07/19 17:29
名前: 美純 ◆dWCUS.kIT. (ID: 9Bqwph5S)

009

「は……? 大地?」
心の中では即座に理解した。さとは大地が好きだと。でも、確か大地は森澤と付き合っていたはず……?
「——ん……っ?」
さとが小さく呻き、そっと目を開けた。パチパチと瞬きをして、目があった。
「え、何で……千早?」
「覚えてねぇの? さと倒れたんだよ」
えっ、と小さく叫び、すべてを理解したらしい。申し訳なさそうに、俺を見つめた。
「ごめんなさい、運んでくれたんですね。ありがとうございますっ……」
「え、あ……ああ」
さとは素直だ。お礼もちゃんとするし、礼儀も正しいし、頭もいいらしい。皆から評判がいいのも分かる。
でも、その内は弱く繊細で底知れない闇を持っている。決して外には見せないけれど。
幼なじみでよかった。なんて、単純だよな……。
「じゃあ……、ありがとう。家に帰りますね」
ぼーっとしている間に、すとんとベットから降りるさと。だけど、仮にも熱があるんだ。寝かせておかないと……。
「ダメ、ちゃんと寝ておかないと! 俺が彗さんに怒られちまうから」
「え、でも……。———わ、分かりました……。彗兄は怖いですもんね」
ふふっと笑ってまた、ベットにすっともぐりこんだ。俺は濡らしたタオルをさとの頭に乗せた。
「千早の匂いがする……」
「え……」
さとはめったにこんなこと言わないのに……。やっぱ熱のせいなのか……。
数分後、またさとの寝息が聞こえた。それを確認して、俺は椅子に座った。

———きっと。
さっきの『大地、行かないで』は、本心だろう。小さいころから、さとは大地を見ていた。
俺がさとを見ているときはさとは大地を愛おしそうに眺めていた。大地はそんなこと気づきやしなかったけど。
「大地と森澤が付き合い始めたから」
悩んで、眠れなくて、食欲もなかった。そして一人で抱え込んでは、壊れてゆく。
「さと……無理すんなよ。これからは俺がいるんだからさ」
力になりたい。ちょっとずつでいいから、俺に心を開いてほしい。この10年間の穴を、ちょっとずつでいいから。
そして、願うなら……。
笑っていてほしい。ずっとずっと、俺の隣で。



(泣かないでとは言わない。でも、笑っていて?)