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Re: COOL GIRL ( No.293 )
日時: 2010/10/16 22:17
名前: ピーチ (ID: rE1CEdls)

第三十五話
     「不安の穴」


帰宅した後、真っ先に向かったテラス。

恵里奈は、今どう思っているだろうか……。

翼は、思ったより嬉しく無かった。
普通なら、ライバルと初回から戦えるなんて嬉しい以上の事はないはずだ。

だが、翼の心には何故か心の底から、嬉しいと思えなかった……。

「こんなとこに居たら、風邪引くわよ。」

いきなり声を掛けられ、慌てて振り向くとそこに居たのは、母だった。

「一回戦、恵里奈ちゃんと当たるんでしょ? どうしたの? そんな浮かない顔して……嬉しくないの??」

母が隣りに寄り沿う。

「知ってたんだ……対戦相手が恵里奈だってこと。」

「当たり前でしょ?? 一応、桜ヶ丘高校の理事長ですからね!!」

「嬉しいはずなのに、なんか…あんま気合が入んないって言うか……なんて言うか……その……。」
うまく言葉に出来ない。

すると、母は———。

「母さんね、本当は翼がまた空手をするって聞いた時、正直やらせたく無かったの。」
思いもよらない言葉に、翼は驚く。

「翼がここに来る前に、父さんと約束したの。」

約束とは何だろうか?

「“翼をもう二度と空手をさせない”ってね……。驚いたでしょ??」

「驚くも何も……何でそんな事したの?」

幼い頃に離ればなれになった、お母さんが何故そんな事を言ったのか……検討もつかない。

「せっかく、完治したのにまたあんな風になったら嫌だもん…翼は女の子なのよ?? 女子高校生として、日本に来て欲しかったの。」

その言葉は、一瞬で翼の心に響いた。

「でもね……。 それは、出来なかった。 翼がパーティーで流した涙…母さんあれは応えたな……。翼が怪我から復帰したのに、まだ空手したいなんて……。」

そう言って、母は娘の肩に両手をのせた。

「大丈夫よ!! 今の翼には、恐いものなんて無い! だって、もう乗り越えられたんだから!! 自分を信じなさい!」

お母さんの言った言葉は、さっきまで不安でいっぱいだった渦を一気に消し去ってくれた。

「ありがとう、お母さん!! 何か、あたしアイツに勝てる気がして来た!!」

翼の心には、もう不安が無くなっていた。