コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 嘘に包まれた、さよなら ( No.30 )
- 日時: 2010/08/10 17:34
- 名前: あさ子 ◆D2yUo.n7Ls (ID: ZZ5Hb1Lx)
俺が“好き”と言えば彼女は必ず“くたばれ”と返してきて。そこからは普通の会話が繋がった。
何度か“好き”と言わずに話しかけてみたものの、いつもみたく無視された。しかし“好き”と言えば詩織は必ず俺の一言一言に返してくれた。
とにかく、俺は詩織と会話したかった。だから会えば必ず“好き”という言葉をかけるようになった。だが、俺のことはよっぽど嫌いなようで、未だに言う度に眉間に皺を寄せられる。
嗚呼、これで俺の中の感覚は狂ったのだろう。何故、こんなにも詩織と会話がしたかったのか忘れてしまった。ただ、詩織を見かければ口に出す言葉を全て同じで。その言葉の本来の意味が、わからなくなった。
気付けば詩織との会話は途絶えていた。まずいと思った。何故かはわからない。だけど、会話だけは絶対にしないと駄目だ、とよくわからない義務感に襲われた。
「詩織」
声をかける。が、無視される。
嗚呼、そうだった詩織の反応がある言葉はひとつしかないじゃないか。
「好きだよ」
言い慣れた言葉を紡ぐ。詩織はまるで聞こえていないかのように、ただ真っすぐ前を向いて変わらず速足で歩いている。
聞こえなかった……? 彼女が俺の言葉に返事をしてこないことは初めてだった。
「好きだよ」
もう一度紡ぐ。やはり無視だ。
「詩織、詩織。好き、好きだよ」
更に紡ぐ。一向に振り向いてくれない。
「詩織、好きだ、よ」
とうとう俺は足を止めた。彼女はすたすたと変わらない歩調で進んでいく。
いい加減に彼女はこの言葉にすら返答するのも億劫になったのか。それ程までに俺の存在が嫌なのか。唯一会話ができると思っていたこの言葉さえも、とうとう使えなくなったのか。
一人呆然とアスファルトの地面を見つめていた。彼女との会話の手段が無くなって、どうすればいいのだろ。ただそれだけ考えていた。だから目前に人が来たことなど分らなかった。
「祐樹」
驚いて顔を上げる。そこにはどこか物悲しげに憂いの表情を浮かべた、詩織が立っていた。
久しぶりに名前を呼ばれた。最近は名前どころか、名字ですらも呼んでもらえていなかった。どういう心境の変化だろう。
「詩織……?」
不思議に思って名前を呼んでから気付いた。ほんのりと瞳に潤んだ膜を張っている。夕日が反射した彼女の瞳はきらきらと光っていて、思わず魅入るほどだった。
「祐樹、もう止めて」
小さな紅色の唇から出る詩織の声は細く、震えていた。
/二話目終了
「嘘に包まれた、さよなら」の続き書いていない、と思って即興に書いてしまいました^p^
そうしたらまさかの三話構成になってしまいましたw