コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: ☆星の子☆   返信200突破記念『キャラ人気投票』開催中! ( No.214 )
日時: 2010/11/11 21:15
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: gWH3Y7K0)

7章     58話「悲しみの雄叫び」


「G−270……!」

 僕は彼女の名前を呟いた。そうすることで彼女の名前と共に怒りも吐き出せる気がしたのだ。
 でも違った。心から湧き上がるのは許す感情ではなく、怒りの感情、憎しみの感情だった。そしてそのイライラは日向が振り返った時、最高潮となる—————

 不気味な笑みを浮かべ光聖と真正面から向き合う日向。まだ手はフェンスを握っていたがいつ放してもおかしくない。
 睨み合ったまま数秒そのままでいて、ようやく光聖が口を開いた。いっその事、相手が口を挿めない位立て続けに喋って責めてやろう。そう思って口を開いたが出てきたのは間抜けな声。

「もう来ないかと思った……」

 やはり彼女を前に、そんな威厳満ちた態度はとれなかった。空の前で話すみたいに冗談めかして自分をかっこよく見せる言葉も無論、言えるはずなかった。
 彼女の前では弱い自分、臆病な自分、情けない自分しか出せない……。それが光聖の本音だった。
 力の差は相手の方が圧倒的に上。それなのに、どうしたら威厳ある態度なんかとれよう?
 自分が情けなくて光聖はくしゃっと顔を歪ませた。
 すると日向は光聖の表情を見て気分を良くしたのか、皮肉なほど大きな声で話しかけてきた。

「あ〜ら、今日は話す気力も失せてしまったのかしら?」

 光聖が黙っているのを良いことに、日向は続ける。

「まぁ、それもそうよねぇ。大切な友達に怪我まで負わせて平気でいられるはずないもの。……じゃあこの子は覚えている?」

 そう言って日向はさっと右手を前に突き出しブツクサ呪文らしきものを唱える。すると…日向の手から光のようなものが出て来て一人の少年を映しだした。
 長い黒髪を女の子のように垂らし、肌が青白い男の子。目は二重で少しサイズの大きいパジャマを身につけている。年は……小学6年生くらいだろうか?
 一瞬見たら、誰もが女の子だと思うだろう。そんな可愛らしい男の子を、光聖は穴があくほど見つめた。
 
 見たくない…けれども一秒でも長く見ていたい…
 そんな複雑な心情の中で光聖はこぶしを固く握り真っ直ぐと日向の方を…いや、真っ直ぐと日向の前の可愛らしい少年を、見つめた。
 声が震える。何を言いたいのかもわからない…。「う…」と光聖は呻いて空を見上げた。そしてやっとのことで呟く。

「琉……」

 光聖は呟いた。彼の名を。ハッキリと。
 言葉を発すると共に長い間我慢していた悲しみが波のように押し寄せてきた。涙が零れおちる。でもそんなの気にならない。今は…できるだけ長い時間、琉という彼との思い出に浸りたかった……。
 日向は光聖の反応にとても満足したらしい。口角を吊り上げて意地の悪い眼光で光聖をじっくりと見る。

「私たちが、あなたを諦めたとでも思った……?」

 日向はゆっくりと聞く。でも光聖は答えない。仕方なく日向は続けた。

「それはとんでもない思い違いね。私たちは何年も作戦を練った……。そしてずっと待っていたのよ…? あなたがじき、ここへ来ることは何年も前から予想していた。そして今年こそ! ずっと温めてきた作戦を実行するときなのよ。」

 そう言って日向は右手を握りしめ、男の子を映し出していた光を消した。
 光聖がはっとして日向を睨む。今にでも掴みかかってきそうな勢いだ。
  
「そんなに睨まないで。全てあなたが悪いのよ。彼が大怪我をしたのに助けず、自分のためにほおって置いたんじゃない。だから彼を死なざるをえな…——」

 日向はそこで言葉を切った。光聖が掴みかかってきたのだ。
 目は怒りの炎で燃えたぎらせ、憎しみのこもった拳を振り上げる。耳をつんざくような雄叫びをあげながら。
 でも日向の反応は早かった。さっと横に動き光聖が振り上げた腕を掴む。

「私たちはいつでもあなたの首をへし折れるのよ? 必要とあらば今でも。でも…長い間の決着はショーで決めなきゃ。……今、こうやって笑っていられることを幸運だと思いなさい!」

 そう言って光聖の腕を捻じ曲げると一瞬のうちに姿を消した。
 彼女が最後に聞いたのは彼の悲しみの雄叫びだった。