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Re: ☆星の子☆   朱雀のオススメ!本紹介 第一回 ( No.223 )
日時: 2010/11/20 21:07
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: gWH3Y7K0)

8章       60話「不気味な光」


 パン! と鳴った銃声の音がまだ耳に響いている。
 その音と共に風の唸りも聞こえる。風にとって、精一杯の応援なのかもしれない。
 そして応援席で、私の名前を皆が呼び叫んでいる…。 
 その音たちを背に、私は走った。ひたすら光聖君にバトンを渡すことだけを考えながら—————

 
 二日前———

 楓は階段から落ちて、足の骨を折った。
 頭からは血が出ていたが、医師の先生に聞いてみると問題無いようだ。少し頭皮を切ったらしい。
 その言葉を聞いて空は心底ほっとした。楓に何かあったら——そう考えただけで辛いのだ。
「楓に会えますか。」
 空は知らぬ間にそう聞いていた。そして先生が顎を引いたのを確認して、病室に駆け込んだ。光聖君も後から付いてくる。
 
「楓?!」

 空は一刻も早く楓の顔を見たくて、病室に入っても休むこと無く足を一層速めながら一番奥のカーテンを開けた。
 空は楓の顔を見ると、ほっと安堵のため息をついて、へなへな床へ座りこんだ。足を包帯でぐるぐる巻きにして吊るしてあること以外は、いつもの楓となんら変わり無い。
 楓は空の姿を見てニッコリしながら喋った。

「心配掛けて悪かったね。でもどこも痛くないし…あ、足の方は別だけど。だから大丈夫だよ。」

 楓のそんな呑気な言葉を聞いて空はまた、安堵のため息をついた。そしてそのため息をまた吸い込むように大きく深呼吸して、空も楓とおんなじように口元を和らげ歯を見せてにっと笑った。
 しかし楓は空の笑みを消すように、何かを企んでるような微笑みをして空に追い打ちをかけた。

「じゃあ空。私の足がこんなになっちゃったから、代わりに走って。」

 空は首を傾げた。頭には疑問符を浮かべる。走るって何を?

「スウェーデンリレー。」

 楓は澄ましたように付け加えテーブルの上に置いてあるチョコレートの包みを開いた。ちなみにこのチョコレートは空の母から貰ったやつである。

「食べる?」

 そう聞いて楓はやっと立ち上がった空にチョコを1つ投げてよこした。空は危なっかしくそれを受け取ると、まだ頭に疑問符を浮かべながらチョコを口の中に放り込んだ。
 楓の事故がよほどショックだったらしく、頭がうまく回らない。「ええーっ!」っと驚愕の声を上げる頃には口の中にチョコの甘い味が広がっていた。


 ———と、そんなわけで今の状況に至る。
 つまり…空は今120メートルを走っている真っ最中なのだ。相手は10メートル近く後ろで空を追ってる。空は心の中で(余裕余裕!)と歓喜の声を上げながら速度を上げた。
 空がバトンを渡す相手は他ならぬ光聖君。さっと後ろに手を回しバトンを受け取る準備をしている。
 あれから数時間後、ようやく光聖君はいつもの調子を取り戻したが、屋上で何があったかについては未だ話してくれない。それにたまにボーっと目が宙を泳いでいる時がある。名前を読んだら、まるで眠りから目が覚めるかのようにハッとしていつもの表情に戻る。
 本当に可笑しなものだ。

 空は瞬間的に光聖君との距離を測った。勿論目だけを頼りにだから、おおよそだけど。
 あと光聖君まで10メートルを切った……!
 9,8,7……
 空は手を伸ばした。光聖君が軽く走り始める。
 その時———
 ヒュンッ! と一筋の光が空と光聖君の間を照らした。