コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: ☆星の子☆    キャラ人気投票結果発表!! ( No.239 )
日時: 2010/12/06 21:31
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: gWH3Y7K0)

8章     62話「地獄へ」


 また視界を靄がサーっと覆う。でもさっきよりは深くなく、薄らと靄をとおして自分と琉に関係する過去が見れた。僕は靄があるため、雑草の中から針を探すかのように目を細めた。…といってもここは夢の中。僕が本当に目を細めたのかなんて分からないんだけど。
 見る限り色々な記憶が一気に入り混じって僕の夢の中事態も混乱しているようだった。パッと移ったらパッと違う光景に入れ替わり、いつ、全部の記憶がごっちゃになって僕が夢の中から弾き飛ばされるか分かったもんじゃない。
 すると夢がだいぶ正気を取り戻したようでまた記憶がゆっくりと流れていった。そしてそれを合図に僕の視界も晴れていき…
 見えたとたん僕はハッとして、自分の顔を手で覆いたい衝動に駆られた。見たくなかった。でも夢は僕のその願いを叶えてくれなかった。
 目をそむけたい。この出来事から自責の念をやっと晴らせるくらい落ちつたと思ったのに……。だめだ。この前日向と会って確信した。僕はまだ心の傷を癒せてなかった。そしてこれからもずっとこの傷は癒えぬだろう。
 僕は勇気を奮い起こしておそるおそる琉と幼き頃の僕を見つめた。

 季節は冬。僕が病院に侵入してからもう3か月余り経っていた。僕は一夜にして琉に心を許し、一緒にこの少年と過ごしたいと心から願っていた。だから琉のペットになりすまし、できるだけずっと琉の傍にいた。
 見たところ琉は、どこか悪いところはなさそうなくらい元気ではつらつとしていた。肌はまるで透けて見えるほど青白いを通り越す白さなのに、頬を紅潮させて無邪気に話す姿はとても可愛らしかった。
 いつの日か、「どこが悪いの?」と聞いたことがある。琉は平然と眉一つ変えないまま「心臓のどこか。」と言った。名前が難しくて覚えていないと、苦笑いする琉を見ると胸がチクリと傷んだ。
 そんな幸せで何の心配ごとも起きなかったある日、事件は起こった。夕方、太陽も山へ消えようとしている時、突然強い地震が起きた。僕は華奢な猫姿でフーッと唸った。この地震は尋常じゃないと判断したからだ。震度が強いとか弱いとかそういう問題じゃない。ここ、琉の病室だけが揺れているようなのだ。

「逃げよう!」

 黒猫姿の僕が人間姿に変化しながら必死で言う。

「僕たち、このままじゃ死ぬ!!」

 “死ぬ”。その言葉で我に帰った琉は僕の伸ばした手をぎゅっと握りしめて顎を引いた。『行こう』と言うかのように。
 病室に置いてある物全てがガラガラと崩れおちる。このままじゃ壁も割れてきそうな勢いだ。僕は危なっかしくドアの方まで走った。琉も僕の手に引っ張られながらついて来る。
 まだペシャンコにされていなかったドアを勢いよく開けて通路へと足を踏み出した。
 その通路へのドアはまるで地獄の扉のようだった。