コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ☆星の子☆ ∞2幕∞突入!! ( No.301 )
- 日時: 2011/03/29 13:36
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: O/vit.nk)
9章 69話「ヒナ」
恐ろしい奴————
私はロードを浮遊しながら考えた。ここは異世界と元の世界を行き来するときに通る時間の干渉を受けない通路。私達はこれをロードと言っている。時間の干渉を受けない——つまり時間などここにはないので永遠であったり一瞬であったりする——ロードを私は空をもとの世界に戻すため通過している最中だ。ここでは考える時間はいっぱいあるので——一瞬でもあるが——私は思考を膨らませ、彼女に思いを馳せる。
彼女とはG−270、ハンドルネームことヒナである。
私は上から命令が来て空のところに行く前のことを思い出す。
「おい、天野空は重要なデータだ。もし光聖じゃなく空に当たってたらどうしたんだ?!」
私は責めるようにヒナに詰め寄った。私の視線の先には毒をもった矢に直撃し倒れた光聖がいる。私が見るに屋は空とほんの少ししか距離がなかった。あれが空に当たっていたら————!! 自分たちが上から罰を受けている姿を想像しゾッとする。
そんな私を見て彼女は笑い声をあげる。それが嘲笑のように聞こえて私はムッとした。
「ふん、ちゃんと光聖に当たったんだからいいじゃない。それに100%空に当たらないってわかってたし。」
「?」
「光聖は空をかばおうとして当たったんじゃない。死にたくてわざと当たったのよ。」
プラネタリウムの日、ヒナが光聖から奪ったものを知り、恐怖で私は震えた。
そうか、あれは————!!
確かに私が奪った“記憶”よりんも何倍も恐ろしい。何年もヒナとチームを組み光聖を追ってきたが、彼女が考えることは本当に理解できない。
彼女を唇の端を吊り上げ不気味な笑みを作る。私は首筋に冷や汗が滴り落ちるのを感じた。蒸し暑いはずなのに、寒気がする。
私は恐怖を抑え、呟いた。
「なるほどね……」
「やっとわかった? そう、私が奪ったものは感情。喜怒哀楽・推理・警戒…そのすべてを初期化してやった。」
「そうか…神谷琉斗や天野輝に会う前の光聖はまるで抜け殻のようだった。生きることに絶望し、望みなどないこの世界から永遠に去ろうとしてた、そのころの感情に…。」
「でも自分では死ねなかった。そんな勇気が彼にはなかった。だから今回、いいチャンスだ、と思って…このありさま。全て、私の思い通り。」
彼女はまた笑う。勝利を確信して。
私は彼女が「私達の思い通り」ではなく「私の」と言ったことに不快感を覚えていた。リーダーの私には作戦など何も言わなかった…失敗したら怒られるのは私なのに!!
(おもしろくない……)
私はまだ笑っている彼女を睨んだ。
育ての親が偉いお方だからって自慢しやがって! 自分が『銀河の警官』の中でただ一人の女? そんなことで調子のんな!!
そんなイライラを吐き出したかったが、なんせ成功したんだから私が怒る理由がない。
(それに…確かに効率的だったし…考えることも並はずれてるっていうか…)
そう考えて、また自分が心の中で彼女を褒めていることに気づきそんな自分が嫌になる。
確かに彼女は天才だった。優秀で、『銀河の学校(ギャラクシー・スクール)』でもいつも一番だった。『銀河の警官』にも男しか入れない決まりだったのに『銀河の学校』の校長先生からの推薦により、前代未聞の女警官となった。その後も好成績を収めGチームの中でもトップクラスのチーム入りとなった。
実は私とリン(伊集院琳)、そしてヒナの3人はGのトップチームで、そこそこ有名だ。リーダーは私に任されリンは追跡、ヒナは実行係と決まっている。今回光聖に向け矢を放ったのもヒナだ。
私はまた自然と光聖を見た。敵なのに、なぜか同情してしまった。
恐ろしい奴————
私はロードを浮遊しながらまた思う。そして視線を空に向けため息をついた。空は静かに目を瞑っている。
空が知ったらどんなに悲しむだろう…。抜け殻状態の光聖に会うのは、さぞ辛いだろうに…。
そう思った後ハッとして自己嫌悪する。
(なぜ敵に感情移入しているのだ?! こいつは仮にも私たちのターゲットなのだぞ?)
私はまたため息をつく。こんなだからヒナに負けてしまうのかな…。こんなに心が不安定な私によく彼女たちはついてきてくれるものだ。まぁ、従ってはくれないけど。
ふと彼女の強気な姿が目に浮かび笑みが零れる。そんな彼女が実はそれほど嫌いじゃない。
でも…なぜ私の作戦は悉く失敗するのだろう?
Wデートの日、朝空を捕まえて倉庫に連れて行ったのも、光聖が天野輝のように自分の正体を知り消えるのを阻止するために空が邪魔だったから…。でも光聖が来て、油断していた私の部下はあっけなくやられた…。
さっきも空に光聖に関わる話をしたのは、迷い星クズの話をしたら何か反応があると踏んだから。でも特に目立つようなことはしなかった。
バカな話だと思う。でも一緒に話していると本当に思うのだ。空は『迷い星の子』じゃないんじゃいかって…。
自分はバカだ、とまた自己嫌悪しながら、私は空の手をとった。今度こそ、空をちゃんと連れて帰ってあのお方に褒めてもらうのだ。
我が親愛なるH・F様に……。