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Re: ☆星の子☆     ( No.333 )
日時: 2011/05/01 15:11
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: O/vit.nk)

10章     72話「リーダーの怒りの元凶」


 ≪どうして—————?≫

 あの言葉が耳から離れない。
 なぜだろう。裏切りはよくするのに、今回ばかりは後悔した。
 目にかかる金髪を払い、その手を見つめ思う。

(もう少し、ちゃんと話せばよかった。)

 本拠地のこと、我らの使命のこと、光聖のこと————
 全部、全部、話したうえで気絶させればよかった。
 自責の念が渦を巻き、自分に襲い掛かる。俺は「ちっ」と舌打ちしてここを出た。と、出た先にはナツがいた。俺と同じように帽子を浅くかぶりスカーフも巻いていない。
 ナツは苦笑いしながら話しかける。

「なぜあんなに乱暴にした? ちゃんと説明してからでもよかったのに。」
「ナツには関係ないだろう。」
「まあそうだがな……」

 そう言ってナツは笑う。リーダーのくせに明るくて気楽で…笑いにも全く自分が背負う責任の重さのかけらもない。
 少々お節介だが、こんなやつが自分のリーダーで良かったとよく思う。

「……少し、後悔はしている。」

 俺のその言葉にナツは全てを抱擁するような笑顔で答えた。顎を引き「そうか…」と優しい声色で答えた彼に、俺は内心舌を巻く。こんなだから何でも、気づいたら喋っているのだ。もちろん、悩みを言える良い友ではあるのだが。
 リーダーであり友でもある彼は俺に尋ねる。

「どうだった、麻痺薬は?」

 ああ、と俺は頷き答える。

「ぴったり1時間効いた。凄いな、あれは。効果覿面だったよ。」
「そうだろう?」
「しかし……なぜ光聖を一回起させるような真似を? 眠らせたままのほうが都合が好かったろうに。」
「それは、1つは光聖が失った感情を取り戻すため。2つ目は空に安心してもらうためだ。」

 “空”。
 その言葉を聞き、俺はまたさっきの心の声を思い出す。サイコメトラーはあまりするものではないな、と考え顔をしかめた。ちなみにナツやヒナにはこの能力は聞かない。
 俺は静かに呟いた。

「あの女に……?」
「そうだ。警戒心があると出来ないことってあるだろう?」

 そういうことか、と納得し俺は頷いた。
 そうして歩きながら話していると、目線の先に人影が見えたので、俺はもう一人の仲間の名を呼んだ。それに答える様に名前を呼ばれた彼女は俺たちに話しかける。

「もうそろそろ着くから準備しなさい。」
 
 ヒナは俺等とは違って帽子を深くかぶりスカーフも巻いていた。準備万端らしい。
 ヒナは唯一隠していない眼球を俺たちの服装——スカーフを巻いていない顔へと移し、フンと鼻を鳴らす。その目線に気づいたらしく、ナツは顔をしかめた。明らかに不快そうだ。
 彼は俺を比べ感情を隠すのがさほど上手くない。俺が単なる演技派なのもあるだろうけど。
 おい、とナツがヒナに向かって声をかける。声には苛立ちが滲んでいた。
 
「今、命令口調だったろう。」
 
 言われた彼女は冷たい瞳で自分のリーダーを見る。口元には冷笑が浮かんでいた。

「あら、ごめんなさい。口が滑っちゃって。」
「————っ!!」

 今にも暴れだしそうなナツを俺は右手を彼の肩に置き、止める。
 ナツの怒りの元凶のヒナは、くるっと踵を返し通路を引き返した。
 それを見届け俺はポケットからスカーフを取り出した。それを首の後ろへ持っていき先端を結ぶ。帽子を引っ張って深くかぶり目を瞑った。
 俺はゆっくりと瞳を開く。そして、自分を迎え入れる使命へと足を伸ばした。