コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ☆星の子☆ ( No.374 )
- 日時: 2011/07/23 14:13
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: VXkkD50w)
11章 76話「仲間」
「で? どういうことなんだ?」
俺達は人気のない教室に入った。開いた窓から風が吹き、カーテンがはためく。そんな中、俺の前に光聖と空が怪訝そうな顔をして立っていた。光聖が重い徒労を混ぜた口調で聞く。
俺はひとまず近くの椅子に腰掛け、簡単明瞭に一言言った。
「『銀河の警官(ギャラクシー・ポリス)』をやめた。」
その言葉を聞いて、光聖は大きく目を見開き、髪をくしゃくしゃ掻き毟って乱暴に椅子に座る。空も愁眉を開こうとはしない。
やがて光聖が重い息を吐いてまた聞く。
「それだけじゃわかんない。なんで、ここに来たんだよ。」
「まあ順に話すから落ち着け。それに今は昼休み。時間はある。」
俺はそんな光聖をなだめゆっくりと手短に説明していく。
「実は最近『アステリア』の政治がおかしくなっている。何千年も頂点に立っていたホーリー・フェザーがおかしなことを命令するようになったんだ。女や子供にも無理をさせ、税を奪い漁り、俺達にも変な命令を下す。そのうちに『アステリア』ではホーリー・フェザーを反対する軍——いわゆる反乱軍が結成された。そして俺も警官の仕事を辞め反乱軍に所属した。そして迷い星や迷い星の子についてもっと知るため、ここに来た。もはや俺は敵ではない。安心しろ。」
ホッと安堵の溜息をついた空は、何かを思い出したように一瞬目を宙に泳がせ徐(おもむろ)に聞いた。
「なっちゃ——ナツさんとヒナさんは?」
一番聞かれたくない質問に、俺は一瞬言葉を詰まらせた。少し俯き加減に下を向いて言葉を紡ぐ。
「ヒナはまだ『銀河の警官』の一員だ。『銀河の警官』の頂点にいるH・F様を崇拝しているから、俺たち反乱軍と戦うことは免れないだろう。」
これを聞いて空は相当ショックを受けたようだ。漆黒の瞳を揺らし「仲間と戦うの……?」とか細く呟く。この少女はまだ、俺たちの住み慣れた世界を分かっていない。仲間? それは今となってはもう過去の話。もう俺達は敵なのだ。
ヒナは自分勝手で傲慢で俺に対する態度も悪かった。彼女は俺を頼ってこなかったし、俺も頼らなかった。いつも必要最低限の会話しかせず接点は同じチームということぐらいだった。それでも、俺達は仲間だった。
しかし、ついこの間、分かった。任務が失敗し、リーダーが消え、友達を失った俺に最初に声をかけてきたのは、ヒナだった。彼女は雨で濡れていた。髪も、体も、瞳も。ヒナの立った場所はたちまち水滴でびしょびしょになった。そして彼女は俯き嗚咽を漏らした。彼女の俯いた床は濡れる。彼女の方は小刻みに震える。
それを見て思った。ああ、友達はここにもいたんだと。仲間を失った悲しみを分け合える友達は、すぐ傍にいたんだと。
ヒナはナツが好きだったんだろうか。時々そう考える。しかし、その疑問を抱えていても、もう意味はない。それを聞ける日なんか、もう来ないだろうから。
俺達は、敵なのだ。
「ナツは?」
光聖の問いに現実に引き戻された俺は、微妙な沈黙の後、答える。
「ナツは……ナツも警官の仕事を辞めた。今は平和に『アステリア』で暮らしている。お前達と会うことはもうないだろう。」
自然と繕った嘘が零れる。
何故今俺は嘘をついた————?
俺はそれが不思議だった。本当の事を話せばよかったのに、なぜか「消えた」とは言えなかった。警官の仕事をやめた途端、情が芽生え始めたのだろうか。情はいらない、そんな芽などすぐに摘み取る、そんな自分が消えたから————?
俺は自嘲を含む笑みを作った。そんなもの、自由になった今も、いらない————!!
「話はこれでいいだろう。もうすぐ鐘も鳴る。」
俺は唐突に腰を上げた。こいつらといると、どうも調子が狂う。仲間の事を思い泣きたくなったり、考えてもない嘘をついたり……。
舌打ちしたい衝動を必死に抑え扉に向かった俺を、光聖が呼び止めた。
「リン。最後に一つだけ聞く……。お前は僕の味方か?」
全く間抜けな質問に俺は鼻を鳴らした。どこまでも馬鹿な奴だ。
「その考えは命取りになる。俺はどちらでもない————」
- Re: ☆星の子☆ ( No.375 )
- 日時: 2011/06/26 17:15
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: O/vit.nk)
- 参照: 途中で視点が空→リンになっちゃいました;
私は光聖君からあの日、不思議な声が聞こえたと、そしてその声の主が力を貸してくれたということを手短に聞かされた。それを聞いて答えようのない疑問が私の中で渦を巻くのを感じた。
その声の主とは? “アステル”とは? 我が国とは? なぜ光聖君に力を?
その渦は止まることなく、今日リンさんが転校してきたことによってもっと拡大し、威力を増す。
なぜここに? 反乱軍って? 味方じゃなければ何————?
そんな疑問の波浪を何とか晴らしたい。その願いに応えるかのように足はあるところを目指し突き進んでゆく。
私は何をやっているのだろう……。解決策が見つかったわけでもないのに、ただ己の勘だけでこうして動いている。
そうしているうちにある場所についた。可愛らしい色とモチーフで形作られた喫茶店。なっちゃん……いや、ナツさんと一緒にWデートして一緒にパフェを食べたところ。あの時はナツさんと光聖君がくっつくように協力したんだっけ……。今じゃとてもそんなこと、出来ない。他の女子と光聖君の恋を応援するなんて。
徐に近くの席へ座った。花々に囲まれて鮮やかに彩られた庭園。その中で一人、ある人物を待つ。
程なくしてその人物はやってきた。私を見つけ、近づいてくる。
「何の用だ。俺をこんなところに呼び出して。」
彼の金髪が不満気に顔にかかる。鋭い眼光に負けじと、私は唇を強く噛んだ。私の正面の椅子を勧め話を切り出す。
「実はリンさんに話さなければいけないことがあるの。」
私は光聖君だけにあの日声が聞こえたこと、その声の主が力を貸してくれたことを簡単に説明した。“アステル”などの重要なキーワードも欠かさず。
リンさんは眉を顰め、私の質問に真剣に取り組んでくれた。しかし数秒後、首を傾げ一言告げる。
「わからないな。第一“アステル”なんて言葉、聞いたこともない。」
「そっか……」
私は項垂れ重い溜息を漏らした。結局、手掛かり無しかぁ……。
そんな私を見ながらしかし、と彼は言葉を繋ぐ。
「“アステル”について調べることはできる。声の主も、出来る限り探してみよう。」
「! ありがとう。」
私はやっと顔を上げた。リンさんは元追跡係。調べたりするのはお手の物なのかもしれない。
リンさんはやがて怪訝そうな表情で私に問う。
「なぜそんな大切なことを俺に言った? 俺は味方じゃないと、さっき言っただろう。」
それを聞いて私は首を傾げた。他に頼れる人となれば、リンさんしか頭に浮かんでこなかったからである。よく考えれば当たり前のこと。それにリンさんは、敵・味方になぜそんなに拘るのだろう?
私を見つめ答えを待つリンさんに私はゆっくりと言葉を紡いでゆく。
「敵か味方かなんて、もう決まっているじゃない。リンさんは、私たちに反乱軍の事とか、色々なことを教えてくれた。それは私たちを、信用してくれたからでしょう? だから私も、リンさんに知っている限りのことを話す。
私たちは、仲間だよ。」
“仲間”。
敵ではなく、味方でもない。ただの、“仲間”。
俺にとって単語でしかそれが美しく響き、俺の胸を震わす。
“仲間”か……それも悪くない。
「じゃあ……私はもう帰るね。」
空が席を立つ。
俺は最後にさっきの嘘を、本当の真実を、彼女に伝えようか迷った。
しかし俺の口はきつく閉じられたままだった。
空が俺を信じてくれようが、“仲間”と言ってくれようが、構いなく。