コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: ☆星の子☆  連載1年突破記念!『キャラ人気投票』    ( No.387 )
日時: 2011/07/23 14:18
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: VXkkD50w)

11章     78話「総司令官」

 
 あの日から丁度1週間がたつ。
 その間、俺と空は一言もしゃべっていない。それどころか、すれ違いもしなかった。
 俺は避けているわけではなかった。単に空が俺に近寄ろうとしない……それだけ。
 しかし空に近づけないと迷い星の調査もろくにできない。それには俺も閉口した。
 空のことを考えると頬の痛みが疼くようだった。
 あの平手打ちを避けることは難なくできた。しかし、確かに俺が悪かった気もしたから素直に受けといた。そんな自分を思うと嘲笑が零れる。
 俺も落ちたものだ。

(————「リンさんは本気で人を愛したことなんて無いくせに!!」————)

 あの日から、何度も頭の中でぐるぐる回っているこの言葉。
 愛したことなんて無いさ。だから何だと言う・
 お前はあるのか? 空……
 そう思いながら空を何度も見てみた。しかし、目に映る光景はいつも同じ。空はいつも、どんな時も、迷い星を見つめていた。
 時に優しく、時に力強く、そして時に愛しく————。

(本当にそれでいいのか————?)

 そんな俺の問いが空に聞こえる日は、来るのだろうか?
 そんなことを悶々と考えているうちに、ボロボロの家についた。外からは今にも屋根が落ちそうなくらい使い古された空き家にしか見えないが、中は相当のものだ。俺達の手によって改装されただけある。
 このボロ屋はつい最近まで、俺とナツ、ヒナの3人が使う基地——アジトだった。それなりの家具も集め住み心地のいい家……しかし今はここに、俺しかいない。
 家の中に入り奥へ進むとある大きい鏡が目に付いた。大きさは高さ2m、横もそれなりにあって、全身を映すのに丁度いい代物だ。
 俺は徐に鏡の前でポーズをとってみた。斜めに腰を捻り片足を曲げ、手は拳銃を持ち胸の前で固定する。
 ————しかし、俺の横は寂しく空いていた。
 それは普段いる2人が、いなくなったからだ。
 俺は昔の出来事を思い出した。


「なぁなぁ!! 私達に必要なものは何だと思う?」

 鏡の前に立ったナツの唐突な質問に、俺は「さぁ……」と返答に困った。
 ナツは鼻高々に鏡の前で銃を持ち、その手を胸の前で止めて言った。

「それはポーズだ!! 私はこれ、リンは私の右でヒナは左に立って、私と同じポーズをするんだ。良いじゃないか?」
「は? あんたが真ん中なわけ? 私はやらないわよ。」
「そう言わずにさぁ!! やってみろよ。絶対かっこいいぜ!」
「……ポーズを決めてどうするんだ?」
 
 妙にノリ気なナツに、俺は聞いた。あまり無意味なことは、やりたくない。

「ん〜……さぁ?」

 ナツの曖昧かつ投げやりな返答に、俺は顔を歪めた。
 鏡に背を向けて言う。

「俺はやらないぞ。」
「私もお断りね。」
「えっ、あっちょっと!!」

 部屋から出ようとする俺達をナツは必死で止めた。
 これもいい思い出だとか、H・F様の前でいい格好を出来るなど、訳のわからん言い訳を並べている。
 そんなナツに負け、俺達は一回だけポーズをとることになった。 
 ヒナはさっきまで嫌々言っていたくせに優雅にポーズをとって、自分なりのアレンジまでしている。
 マジかよ……。
 俺は溜息を盛大に吐き、しょうがなく銃を持った手を胸の前に置いた。
 俺の瞳に映ったのは、鏡の中のもう一人の俺達。Gのトップチーム。
 ナツは満面の笑みを浮かべ、ヒナはすまし、俺は顔を顰めて————


 色褪せてしまった記憶。今は亡きGのトップチーム。
 それが鏡を通し、より鮮明に俺の瞳に映し出される。
 懐かしすぎる記憶。もう戻ってこない過去。
 これらを前にしても、俺の涙が鏡に映ることはなかった。

Re: ☆星の子☆  連載1年突破記念!『キャラ人気投票』    ( No.388 )
日時: 2011/07/23 16:47
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: VXkkD50w)

 と俺が感慨深げに鏡に手を触れていると、外で盛大なクラクションが鳴り響いた。
 「おっさん、邪魔だ! どけ!!」と若者の声と共に何やら呟く男に声が重なる。
 来たか……。
 俺はドアを開けてその男を出迎えた。

「ガルディメット・ジャッカル総司令官。お元気そうで。」
「ふん、小童共めが儂に偉そうな口を叩きおって……横断歩道は渡ってはいけないと勘違いしておったんじゃ。……おぉ!! リン、おぬしそこに居たんか。相も変わらず元気そうで何よりじゃな。」

 愛嬌のある笑みを浮かべ近づいてくるガルディメット・ジャッカル——通称ガルは、俺たち反乱軍のリーダーだ。
 四十代後半の男の格好をし、左目には縦に長く伸びる傷、そして薄い青色の瞳が特徴の彼は昔、『銀河の警官(ギャラクシー・ポリス)』のトップチームCのリーダーだった。しかしホーリー・フェザーに反感を持ち、対政府の軍隊を作って、それが今の反乱軍にまで成長した。ガル総司令官は俺にとって先輩であり、上司でもあるってわけだ。
 しかしずっと『アステリア』で行動していたため、地球に慣れておらず、さっきのように意味不明な行動をとることが多々ある。
 面白い人だ。

「中へ上がってください。少し殺風景ですが。」
「では言葉に甘えるとしよう。なかなか良い住処(すみか)ではないか。」

 俺はガル総司令官をソファへ座らせた。
 一旦落ち着かせないと、何かをしでかしそうで気が気でならない。
 困り種の彼はふかふかしたソファの座り心地が最高らしく、何度も立っては座り、また立っては座っている。
 と、俺に目をつけ青い瞳を細めた。

「“器”は使ってないんじゃな。」
「その人物の存在を使えるというのは便利ですが、何かと面倒なので。」
「はっはっ、そういう場合もあろう。」

 ガル総司令官は俺が入れた麦茶をすすり——コーヒーなどを彼は好かない——本題に触れた。

「調査は進んどるか?」
 
 調査どころか丸1週間会ってもいない。
 俺は目を伏せ「いいえ」と答える。
 ガル総司令官は苦笑して「まぁよい」ともう一度麦茶をすすった。
 沈黙が俺の背に重く伸し掛かる。
 俺は何か話題を作ろうと口を開いたその時、ガル総司令官が言いにくそうに話を切り出した。

「実は……1つ頼みごとがあるんじゃが……聞いてもらえるかの?」
「? えぇ、勿論。」
「迷い星と迷い星の子に、参戦を願えるか?」
「参戦————!?」

 呆気にとられ声も出ない俺に、ガル総司令官はすまなそうに眉を寄せた。そのまま頭を下げ、訳とともにもう一度、頼む。

「迷い星が強大な力で警官たちの手から逃れたと聞いた。その力を今回の戦いで使えたら、莫大な戦力になると思うんじゃ。無理を承知で検討してもらえるか?」

 その必死な姿を見て、断れるはずがないと思った俺は、ある大きな問題点に気づく。

「しかし迷い星の子は? 彼女は力も無いし幼い。ろくな戦力にならないと思うのですが————」
「いや。彼女は内に力を秘めておる。迷い星の輝きと力強さ、人間の賢さと優しさを兼ね備えておるからな。」

 俺の問いに彼は断固とそう言った。
 そこには誰にも譲れないとでもいうような熱いパワーが漲っていた。
 やはりこの人には勝てないな————
 俺は尊敬半分呆れ半分にふーっと息を吐き、顎を引いた。

「わかりました。やってみましょう。吉報を心待ちしてください。」

 その言葉を聞いた総司令官は無邪気に笑った。