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Re: ☆星の子☆  返信400突破! 『キャラ人気投票』    ( No.403 )
日時: 2011/08/05 21:23
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 1Fvr9aUF)

11章     80話「守りたい」


 あれからそうやって家まで帰ったか、よく覚えていない。
 とにかく頭の中は不安と混乱が渦巻いていた。
 大人しくここで光聖君を待つか、迷い星だと偽って『アステリア』まで行くか————……二択しか私には残されていなかった。しかし後者の場合は危険も伴う。
 本音を言えば行きたくなかった。痛い目に合うのも、嘘をつくのも、嫌だった。しかし、光聖君についていきたいというのも、本当の気持であった。
 私はいったい何をしたいんだろう……。
 ベッドに横になりながら、私は重い息を吐いた。

「星……見ようかな。」

 こういう時はこれに限る。私はベッドから降りて、そそくさと移動した。星が一番よく見えるのは、義父輝さんの部屋——つまり光聖君の部屋である。彼は今どこかへ出かけている。星を見るのに丁度いいことこの上なかった。
 ゆっくりと光聖君の部屋へ入る。彼の部屋はほとんど輝さんの私物しか置かれてなかった。光聖君の持ち物というと授業道具と服くらいだろうか?
 ベランダへ出ようとして、一人の影が目に付いた。私と同じショートの髪が風に吹かれている。体は少し丸みがあって、何もかも包み込んでくれそうな優しさを連想させた。

「お母さん……?」

 なぜここに? という疑問と共に母に近寄る。「どうしたの?」と私が聞いて、やっと母は振り返った。私がここにいたことが本当に知らなかったらしく目を丸くしている。
 私は母の横に移動した。母は温かく微笑んでさっきの質問に答えた。

「お母さんもちょっと星を見ようかな、って思ってね。」
「ふ〜ん、お母さんが星見るなんて珍しいね。」
「そう?」

 母はまた夜空に目を戻す。時々目を細めては遠いまなざしで星を見ていた。
 私はその遠い眼差しに異様な既視感を覚えた。それは、母と全く同じ視線を光聖君もしていたからだろう。
 何故だろう?
と、母が目を細めながら星を見ているのに気づき、問いかける。

「望遠鏡使ったら? 光聖君の部屋にあるけど。」
「……いいわ。この目で、裸眼でちゃんと見たいから。」

 私の気遣いに母は頭を振った。
 「へんなの」と私は呟き空を見る。今日は一段と星が綺麗だ。黄色や白の無数の星達が、墨で塗りつぶしたような暗い夜空によく映える。
 と、沈黙が続いた後、母が口を開いた。

「今日ね、お父さんが最後に出張に行った日なの。……出張というのには長い、長すぎる旅ね。——まだ仕事は終わってないみたいだけど……」

 お父さんというのは、輝さんの事だろう。母は私が、輝さんは義父だということを知らないと思っている。
 お母さんはお父さんをずっと待っているんだ————
 正式には行方不明だと判断され、もう死んだことになっているけど、お母さんは戻ってくると信じているんだ……。
 母の顔には愁いの感情がちらついた。輝さんも、こんなに愛されてさぞ幸せだろう。
 母は手を伸ばした。そして、その手で宙を掴む。

「こうやって空を見ると、お父さんが近くにいるような気がするのよね。まるでずっとお母さん達を見守ってくれているみたい……。」

 それは私もわかる気がした。
 輝さんはもういなくて、姿も見れないけれど——そこにいる。私たちの傍に、いる。
 だから私も星を見ると安心するのだろうか————。
 何となく私が星を見る理由の根本が、わかった気がした。

「この宇宙(そら)を、ずっと守ってあげたいわ——————」
 
 その母の何気ない呟きが、私の胸に響き渡った。

「…………空もそうだよ————私が、守る……!」

 母は驚いて私を見たが、やがて嬉しそうに笑みを作る。
 その瞳はキラキラと輝き、とても澄み渡っていた。
 
「お父さんが聞いたら、きっと、喜ぶでしょうね。」
「うん!」

 私も母に負けないくらいの笑みを作って、夜空を見上げた。
 輝き瞬く星達が、私の背中を押してくれるようだった。


日曜日

「もうそろそろ時間になりますね。」
「ふむ……もう諦めるかの。」

 そんな二人の声が遠く聞こえた。
 やっぱり空は来ないのだろうか……
 寂しいような、安心したような、どちらともいえない感情が僕の心から溢れる。
 ——と、誰かが走ってくる音がかすかに聞こえた。
 僕はいち早く振り返る、と同時に古い扉がギーと音を立てながら開いた。少女が息を切らせながら入る。

「はっ————遅れて、すみませんっ……まだ、間に合いますか——」

 リンは瞬間表情を緩ませ、一瞬にしてそれを顔から消し去る。
 唯、僕だけは口角を上げて、彼女を迎えた。

「遅いよ、空。」
「もう時間だ。」
「さて、皆揃ったの。行くとするか。」

 リンは極めて冷静に、ガルは全てを包容するような笑みで、それぞれ空を迎える。
 空は目の前に多くの困難が待ち受けているにもかかわらず、凛と立って頷いた。
 また、強くなったんだな————
 何故だか感慨深く、僕は空を見る。その小さい背には、多く重い色々なもの達が乗っているのだ。
 空は一度、後ろを振り返った。
 まるで今までの生活にさよならを告げるように。
 
 そして僕らは一歩前へ踏み出す。
 故郷へと——戦争へと————