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Re: ☆星の子☆  〜番外編〜  『キャラ人気投票』    ( No.419 )
日時: 2011/08/24 19:55
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: EZ3wiCAd)
参照: この回大好き……!!ww

12章     81話「束の間の未来」


 今回私たちが乗った乗り物は、前のような殺風景な景色ではなかった。必要なものが最低限しか置かれていなかったのとは打って変わって、とても人間味のある広い部屋に私達は案内される。
 実はこの中までどうやって入ってきたのか、よくわからない。この前もそうだった。ただ、気が付いたら乗っている。そしてこの乗り物は既に動いている。今回もそういう状況に私たちは置かれている。どうやらこの有能な乗り物を見られたくないらしい。国家秘密だとかなんとか。
 この部屋は操作室だと教えてくれた。私の前方は色々なスイッチや機械ばかりだ。しかし二部屋をまとめて操作室にしているので、ソファなどのくつろげる家具も多い。ここに連れてきたのは操作をしながら私たちと話すためらしい。『アステリア』についてや戦略を練るために。
 と、機会に心を奪われていた光聖君がガルさんに問う。

「ガル、どうやって『アステリア』まで行くんだ?」
「んー、知りたいか? 小童にはとても想像できんじゃろうな。リン、説明してやれ。」

 ガルさんはモニターから目を離さないまま、指先だけを動かして機械を操る。
 そんな彼に任されたリンさんは、鼻を鳴らして教えた。

「お前達、相対性理論は知っているか? ニュートン力学と光の電磁気理論との矛盾を時間・空間の考え方に新概念を——」
「ちょ、ちょっと待った! 意味が分からないんだけど……」

 私が焦って止めるとリンさん大きな溜息を一つ吐き出して、一言まとめて言った。

「まぁつまり、速度が重要だ。」
「速度が?」
「相対性理論によって人間は未来を見ることが可能だと知った。その方法は30万キロの速度で走る、という簡単なもの。しかし人間はそんなに早く走れない——だが、この機械は走れる。」

 そしてリンさんは話を終えた。最後に一言「それだけだ」と告げる。
 そんな愛想の悪いリンさんを見て、ガルさんは笑った。

「言わば、未来視する方法で上に飛ぶ、じゃの。しかし30万キロの速度で走ればいくら儂らと言えど体は壊れる。30万キロで走るのはほんの一瞬じゃよ。」
「そ、そうなんですか……」

 ちゃんと働かない頭を何とか懸命に働かせ頷く私に、ガルさんは満面の笑みを浮かべ言う。
 
「まぁお主等はそれでも持ち堪えるかもしれんのう。迷い星の血を受け継いでいるんじゃから。」
「えっ……」

 それを聞いて私は思い出した。言わなければいけない事があると。
 勇気を振り絞り、途中で降ろされても良い覚悟で言う。

「あ、あのっ! 私、迷い星の子じゃないんです! お父さんは普通の人間なんです……」

 私はぎゅっと目を瞑った。リンさん達の驚いている顔が目に浮かぶ。
 しかし、返ってきたのは何とも軽いものだった。

「知っている。」
「迷い星の血が本当に流れているのなら、何か特徴や特殊な能力がある筈じゃ。しかし、お主にはそれが無い。」
「じ、じゃあ、あんた達それを知ってて空を連れてきたのか?!」

 彼らの淡白な様子に光聖君は目を丸くした。
 確かに迷い星の子じゃない私に用は無いんじゃ……?
 するとリンさんは真面目な顔で私に問う。

「お前の父親は誰だ?」
「え……えっと、名前は分からないけど——」
「そうじゃない、お前を育ててくれた父だ。」
「……輝さん?」
 
 リンさんはゆっくりと顎を引いた。顔には満足げな笑みが浮かぶ。
 
「そうだ。それがお前の父だ。お前を育ててくれた天野輝がな。」
「本当の父親じゃなくても、父という存在でお主を支えてくれた迷い星——彼の遺志を継いでいるお主を放っておく訳ないじゃろう?」
「そういうことか……」

 二人の言葉に光聖君はしきりに頷く。
 私はホッとしたのも束の間、言い知れない不安が押し寄せるのを感じた。

「でも私、何も出来ないし……戦いの邪魔になるだけじゃ——」
「良いんだよ、空は僕がちゃんと守るから。」

 私の焦りに光聖君は笑ってそう言った。
 私は途端に顔が上気するのを感じて、思わず顔に手を当てる。
 そんな時、ガルさんが急に声を張り上げた。

「皆よ! もう少しでブラックホールに突入じゃぞ!」
「ブラックホール? まさか、ここって宇宙だったのか!?」

 そんな私の気も知れず、ガルさんの言葉に光聖君は顔を顰める。
 
「そうだ。地上に『アステリア』までの通路でもあると思ったか? 宇宙にあるブラックホール……その中を30万キロで走った時、初めて『アステリア』に行けるのだ。」

 私は一気に気を引き締めた。もう少しで『アステリア』————
 果たして未来は見えるのだろうか?

「行くぞ!」

 一気に速度が上がった。乗り物の中なのに、耳が痛い。
 ついに立っていられなくなって、私は床に手をついた。
 体が壊れそうだ————
 時間がとても長く感じられた。しかしそれも直に終わりを告げる。

「あっ……?」

 その速度が落ちる瞬間、垣間見た、束の間の未来——
 そこには、私一人しかいなかった。