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- Re: ☆星の子☆ 〜番外編〜 『キャラ人気投票』 ( No.422 )
- 日時: 2011/09/06 20:34
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: EZ3wiCAd)
12章 82話「歓声と幕開け」
速度が落ちた。もうブラックホールは終わったのだと俺は確信する。
着くまであと4,50分ってとこか。
「今から戦略を練るぞ!」というガル総司令官の声が聞こえる中、俺はその場を離れた。
やることが俺には山ほどある。
操作室を離れた俺は、迷わずに真っ直ぐ廊下を進む。そして突き当りを左で曲がって色々な部屋の扉が並ぶ中、一番初めにあった扉の中へ入った。
入った途端、巨大な本棚が目に付いた。四方八方本で囲まれてそれに圧倒される。そして少し奥に進むと今度は数十個の機械と大きな画面。地球のパソコンによく似ている。
ここは資料室。色々調べものをしたい時にここほど便利な場所はない。
俺は迷わず一つの機械の前に座る。そしてモニターに検索画面が表示されたのを確認し、ある一つの言葉を打ち込んだ。
するとすぐに検索結果が映った。そしてそれを俺は目を皿にして眺める。
「…………!?」
俺は意味が理解できず数十秒その場に座っていた。
そしてその後、俺は咄嗟に立ちあがった。
真実を、ようやく理解した。
あいつは————
「……空には、言えないな。」
俺は小さく呟いた。
現実が、とても過酷なものだったから。
「では、『アステリア』について話そうかの。」
戦い方など基本的なことを教わった後、ガルさんは話題を変えた。
一つ溜息をついて、話す。
「まず、『アステリア』は貧富の差が激しい。赤い絹の上で歩く者もおれば、道端で食物を探し回る者もおる。そして人それぞれじゃが考え方が歪んでいたり、急に襲ってくる者も少なくない。十分注意するのじゃ。」
私たちは異議なく頷いた。
それを確認してガルさんはまた話を続ける。
「そして絶対に一人で行動しないこと。良いかの? 『アステリア』はとても国思いの民ばかりじゃが、お主等を不審に思い攻撃を仕掛けてくる可能性も無くはない。」
ガルさんはやがて目を伏せた。今までの活気あふれる表情はどこへ行ったのか、気が付けば彼の威厳は萎えていた。
「国がこうなったのも……全て政府のせいじゃ……! 表面上はいい面をしている奴等どもに、儂は200年も仕えていたとは……」
ガルさんは苦し紛れに顔を歪ませた。
そんな彼の震える肩を、いつ来たのかリンさんが優しく抱擁する。
リンさんの優しさがガルさんの背中を押したのか、やがて彼は自分に言い聞かせるようにして何度も頷いた。
「大丈夫、こちらには国民の6割がついておる……ホーリー・フェザーの権力も失せてきた。」
「そうです、ガル総司令官。それに迷い星もいる。政府の犬どもに我等が負ける筈ありません。」
リンさんの最後の後押しでガルさんはようやく無邪気に笑った。さっきまでが嘘のように、表情は清々しい。
私たちはホッとそろって安堵の溜息をついた。
総司令官がこうでは、せっかくの勝ち戦も勝負にならない。
と、そんな彼は急に険しい表情で私達——特に光聖君——に言う。
「最後に一つだけ、これだけは絶対に守ってほしいのじゃが————
今回の戦いに関係のない者たちは、巻き込まないでくれ。
無駄に民を、殺めたくはない。」
“殺める”。
その言葉は私たちがここに乗り込んでから、初めて発せられた言葉だった。
不意に私の脳裏に浮かんだ、惨劇。本や教科書などで見た、惨たらしい場面。私は恐怖に顔を顰ませた。その、今まで目にしなかった死体というものを、私は今回目の当たりにしなければならないのだろうか。
と、私の青い顔を見て——それか私の心を読んで——リンさんは私に告げた。
「空、その心配はいらない。」
「えっ——?」
「何故なら『アステリア』の住民は、死んだらもう、形を残さないからだ。」
「どういう事だ?」
リンさんの不可解な言葉に次は光聖君がそう尋ねる。
それにリンさんはいつになく真面目に——光聖君相手の時はいつも冷たいからだ——冷静に答えた。
「俺やナツ、そしてお前が自由自在に姿を変えられるように、『アステリア』の住民も皆、変化できる。そのためか実際の姿は定まっていない。だから————」
リンさんはここで一息ついた。何かを思い出したように悲しげに目を伏せる。
「俺達は致命傷を受ければ、火の粉を残し、抹消する。跡形もなく、消えるのだ。」
「っ——」
私たちはもう、何も言わなかった。いや、何も言えなかった。
突きつけられた現実が、あまりにも残酷だったから。
——何も残らないってことは、その人が生きた証も無くなるってこと——?
私は恐怖に身を震わせた。
(それって、すごく悲しい……)
と、そう考えたところで、ある人物が私の脳内を過ぎった。
漆黒の瞳に青白い肌、そして腰まで届く艶のある髪——
私は会ったことは無いけれど、光聖君の大切な友達、琉斗君。
彼は生まれつき体が弱くて、余命を医師に告げられていた。だから、自分が生きた証だと言って髪をずっと伸ばしていた。
琉斗君のように、皆にも何か証があれば————
「空が証になればいい。」
そんな私の思考をリンさんが遮った。
リンさんはいつになく温厚に、そう言った。
しかし私はあまりに唐突だったので彼の言うことがすぐには理解できず、ただ首を傾げる。
——と、急に辺りが七色に包まれた。
「えっ——!?」
さっきまで蛍光灯のように温かい光で満ちていた、部屋全体が。
何かが私たちを祝福しているようだった。何故だかクラッカーの弾ける音も聞こえてくる。
私は驚いて光聖君の隣にくっついた。しかし彼は静かに深呼吸をしている。
スーッと息を吸って光聖君は瞳を大きく見開いた。瞳は爛々と好奇心に満ち輝いている。
「故郷だ!!」
光聖君がそう言った途端、辺りが大歓声で渦巻いた。