コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ☆星の子☆ ( No.490 )
- 日時: 2012/06/07 19:39
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 62e0Birk)
- 参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/
14章 96話「戦う理由」
北軍 草原——
「白純一族、メトロ……!」
私は歯を食いしばり、敵の名前を繰り返す。
この名を聞いて平静でいられる人がいるのなら是非教えてほしいところね。
今私達の目の前に立ちはだかる敵は、『アステリア』では悪名高き暗殺者である。
身軽な体でターゲットの前に音も無く現れ、一瞬にして命を奪い、目撃者が出る前に颯爽と姿を消すという卑怯なやり口で、彼らは今まで何人もの善人をあの世へ葬っていた。
でも、何だろう。この異様な違和感は……?
そしてそれは自分より遥かに互換の優れているピアの方が強く感じているようだ。恐怖に慄きながらも首をしきりに傾げ「あれ? でも、何故でしょう……?」と呟いている。
横にいるハクはこんな時にも笑みを絶やさず——平静でいられる人は驚くほど近くにいた——私に問う。
「キラ、どうしますか? 相手は名高い暗殺者ですが?」
「……! ふふっ、戦うしか無いでしょう?」
あくまで北軍のリーダーは私だ。それに対してハクは問う事で示してくれた。
この軍を動かす主導権は私にある——それを再認識し、私は答える事で敵との戦闘を宣言した。
私の返答を聞き、「それでこそキラです」とハクは嬉しそうに言う。私も笑い返した。
銀色の毛並みを持つ狼の群れ、その先頭に立つ悪名高き王族の白い狼。
それが何だと言う。
こっちには大の大人でさえ根負けの怪力女に——最近は自分の自慢にしているの。ちゃんとした長所だってハクが言ってくれたから——小柄ですごく可愛い鋭敏な少女に、虚心坦懐でとっても心強い少年がいる。
負ける筈なんか無いのよ。
「クックック……その根拠の無い自信はどこから沸いてくるのだろうな? こちらには脚力に自身のある風狼軍——それに比べてそなた達は、戦闘経験も乏しいのではないか? 見よ、そこの少女は怯えて足が竦んでいるぞ?」
いきなり話を振られたピアは「ひっ」と小さく声を漏らし、私の後ろで隠れるように身を潜めた。
私は喉を唸らせ嘲笑の意を示す白い狼を一睨みする。
と、ハクがこちらを心配げに見つめ、そっと耳打ちした。
「キラ、早く始めましょう。敵は腹をすかしています。このまま長引かせると危ない——」
確かに。
メトロの後ろで荒い呼吸をしながら貪婪に目を光らせる風狼軍を盗み見し、私は小さく頷いた。私達の会話を動作だけで理解したのか、北軍に緊迫した雰囲気が漂う。ピアが後ろで背負った弓矢を手に取るのを確認し、私の大鎌を持つ右手にも力が入った。
狼の群れが腰を上げ鋭い犬歯を剥き出しにして戦闘姿勢をとる。
メトロが一歩前に出る。
そして白く鮮やかな月が雲間から覗くと同時に、咆哮のような狼特有の遠吠えが響き渡った。
次の瞬間、どちら共つかずに地を蹴り、その反動で各々の靴底に火花が飛び散る。
それが、ここでの本当の戦闘開始合図となった。
- Re: ☆星の子☆ ( No.491 )
- 日時: 2012/03/24 12:20
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: /.e96SVN)
- 参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/
流石、噂で聞いたとおりの移動速度だ。やはり風狼軍、侮ってはいけない。私達北軍のほうが2、3倍人数は多いのに、武器を振るうとは正に紙一重、ヒラリと軽くかわし隙を突いてくる。獣一匹に三人でも歯が立たないとは……
私は悔しさにギリ……と歯を食いしばった。
そんな間にも一人、また一人と火の粉が散り、消える。
守りたいのに、守れない。
「っ……」
そんな気持ちで胸がいっぱいになり、苦しくて私はまたやみくもに大鎌を振り回す。しかし何も考えず只放つ攻撃が敵に当たる筈も無い。これもまた、軽々とかわされてしまった。
そもそも戦争なんて、トップを討伐すれば一瞬で済む話である。
そして敵もそれを知ってか、メトロは動こうとせず戦いの成り行きを静かに見守っているだけだ。勿論、周りには防御対策かのような竜巻が渦を巻き、迂闊に近寄れなかったが。
何度かメトロに攻撃を加えられないかと試みたが、何故か私の周りだけやたらと獣が多く、完全にマークされてしまっている。
私は狼が鋭い犬歯で噛み付こうとするのをヒラリと避け、横目で仲間の無事を確認する————
と、5メートル先でピアが悪戦苦闘しているのが目に入った。
二匹相手に四苦八苦しているピア。その背後に他の狼が大きく口を開け、飛び掛る。
「っ、危ない!」
一瞬頭が真っ白になった私の体が、一早く動いた。
ただピアを守りたい。そう、それだけの理由なのに、何故だか体の奥底から力が漲る。
そっか、戦う理由なんて簡単で良いんだ。
私はその狼目掛け、大鎌を振るう。他の敵なんて、今は関係ない。
シュッ
私の武器は大きな弧を描き、ピアへ飛び掛った狼の首筋へ振り下ろされた。
「ガアアァァッ!」
狼の悲痛な叫びが草原に響く。
やった、と私は内心喜びながらも平静を装う。
するとようやく自分が窮地に立たされていた事を悟ったピアは、瞳を大きく見開き私の無事を確かめるように腕を掴んだ。
「キラさんっ! だ、大丈夫ですかっ!?」
「はっはっ——ピアは何も無かったのね、良かった……」
私はピアの元気そうな顔を見て、優しい安堵感に包まれた。自然と笑みが零れる。
しかしまだ戦いは終わったわけではない。
周りでまだまだ熾烈な戦いが繰り広げられているのを確認して、ピアの手を解いた。
ここで休んでいる場合じゃない。私達も応戦しなきゃ。
空には絶える事無く火の粉が舞っている。胸の奥がキュッと締め付けられるのを痛感しながら、私はピアと背中を合わせた。
「っピア、私が攻めるからあなたは弓矢で対応して。風狼軍は所詮獣。知恵はそんなに無い筈よ。そこを上手く利用して——」
「はいっ!」
私はじりじりと私達が動くのを待つ狼達を一瞥し、地を蹴った。
——さっき敵を討った時、一つ得たことがある。
傷口から噴き出した火の粉、その色は銀じゃなく白だった。
火の粉が白なのは白純王族メトロだけの筈だ。何故なら彼は王族末裔。彼自身もそう名乗っていたし、グロさんの情報を聞く限りそれで合っている。
それならさっきの火の粉は——?
私は火の粉が舞い散る夜空を眺め、呟いた。
「なるほどね……」