コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: ☆星の子☆  久しぶりのヒーローです。 ( No.501 )
日時: 2012/05/27 10:50
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: w93.1umH)
参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/

15章     98話「ヘンゼルとグレーテル、そして魔女」


東軍 密林 光星——

 急に、地が割れるかと思うくらいの爆発音が響いた。その爆発で発生した暴風のせいか、木々の枝や葉がゆらゆらと揺れ僕の不安を煽る。地面も心無しか揺れている気がして、僕は足を止めた。
 何故か胸騒ぎがする。ざわざわと不気味に風に吹かれる木々の隙間を見て、無意識に後ろを振り返った僕は、その違和感の正体に気付いた。

「空が……いない……?」

 胸が締め付けられたように痛い。止め処なく流れる冷や汗に、背を這い上がるような恐怖の戦慄。それらに負けじと僕はユキに歩み寄った。
 紫のベールが顔を覆っているため表情はよく分からないが、彼女の周りには哀愁の雰囲気が漂っていた。
 「空は!?」と僕がまくし立てるのに対し、ユキはあくまで冷静に言葉を紡ぐ。

「空さんは今、別次元に飛ばされています。別次元とは……そう、時間さえ干渉できない闇へ。愚かな者です……危険だと、そう言ったのに。」
「……まるでこうなる事が分かっていた様ない言い方だな。」

 僕が顔を顰め怪訝そうに言い返すと、ベールの奥からくすりと笑い声が漏れた。
 掌の水晶を大切そうに撫でながらユキがか細い声で続ける。

「未来は幾つもに分岐しています。人が行動する選択肢が無数にあるからです。そして私達は今、一つの道を進んでいる途中……その物語の結末がハッピーなのかバッドなのかは誰にも分かりません。」
「え、でもさっき……」
「しかし、その未来には決して定まっている訳ではない、言わば確率があるのも事実です。」

 ユキは僕の言葉を遮り、畳み掛けるように言った。最後に、私はその確率が高い未来を見る事が出来る、と付け加えて。
 もうこれ以上話す必要は無いと思ったのか、ユキは何も言わずに僕を黙視する。
 敵地まで進むのか、空を探すのか。僕が決めろという事だろう。
 しかし僕はユキの話を聞いても動くことが出来ずにいた。
 別次元に飛ばされてしまった空。敵が望まない限り、見つけ出すのは不可能だろう。
 しかし空の無事が分からないまま進むのは心残りがあったし、何より不安だった。
 僕は目の前でじっと立っている修道服の女性に再度尋ねる。

「空は……無事戻って来られるかな?」

 ユキはまるでその質問が来る事を知っていたかのように、間髪入れず答えた。

「えぇ、きっと。」

Re: ☆星の子☆  87話の回想がちょっぴり。 ( No.502 )
日時: 2012/05/27 10:52
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: w93.1umH)
参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/

東軍 空VSムマ——

 私は目を瞬かせた。
 さっきまでここは森で、目の前には怒り狂った敵がいた筈。
 それなのに……

「お菓子……っ!?」

 目の前には甘い香りを漂わし、まるで私に手招きをしているようなお菓子の家。
 屋根はチョコ、壁は全てビスケットやクッキーで出来ていて、窓の縁はキャンディ、ガラスは水飴を固体にしたらしきもので形作られていた。
 私はごくりと唾を飲み込む。
 これはムマの罠だと本能は告げているのに、先程から積もっていた疲労を甘い物を食べる事で晴らしたい。そう思う私の欲求が勝っている。
 すると、ここぞとばかりにお腹がなった。

「そういえばお昼から何も食べてなかったっけ……」

 ふらり、と私は前へ進む。『腹が減っては戦は出来ぬ』その教えに今こそ従うべきだと調子のいい事を考えて。
 近づけば近づく程、お菓子の家は魅力的に思えた。かぐわしい芳香が鼻をくすぐり、私を急かす。私はドアノブへ手を伸ばした。
 そして取手にようやく手が触れ、それを回したその時。
——そういえばヘンゼルとグレーテルのお話にも、お菓子の家が出てきたっけ——
 ふとそんな考えが脳裏を過ぎる。
——確かお菓子の家には、悪い魔女が住んでいたんだよね——
 そこまで考えて、私は手を止めた。
 この家の中に、何か良からぬものがある……勘だし根拠も無いが、何となくそう感じた。
 しかし、気付くのが少し遅かったらしい。
 現に私の手はドアノブを回した後で、まさに今、扉に重心を掛けていたところだったのだ。ギィと古い金属が擦れ合う音がする。と同時に冷たい風が耳元を通り抜けていった。背を這うような寒気と不安、その全てが入り混じった感覚に耐えきれなくなり、私は一歩後退する。
 すると突如、嗄れた声がした。

『逃げるんじゃない……』
「ひっ!?」

 私は飛び上がり小さく悲鳴を漏らす。
 そして気が動転してしまったのだろうか。
 私は竦む足に鞭を振るい、目の前の家から距離をとる。そして足をもつれさせながら必死に反対方向へと走り出した。
 先程までは確かにお菓子の家だった筈なのに。今ではすっかり錆びれた奇妙な廃墟と化している。
 どうして? ここは何処——!?
 後ろから、こちらへ何かが襲ってくる殺気じみたものを感じる。そしてどんどん近づく、甲高い笑い声。その声は先程と同じように嗄がれていた。
 止め処なく流れる汗に、荒い息遣い。しかし足だけは、必死に動かす。
 茂みを必死に掻き分けて、森の奥深くまで走った。
そろそろ大丈夫だろうか……?
 ひとしきり走ったところで私はやっと止まった。後ろからは先程も気配も感じなかったので、私は大きく深呼吸し気持ちを落ち着かせる。
さっきのあれは、一体何だったの……? まさか本当に魔女が——ううん、そんな筈ない。だって魔女ならばホウキに跨って空を飛んで、一瞬で私を捕まえられるもの。
 そうやって自問自答し、空を見上げたその時。

「えっ!?」
 
 私の視界に写ったのは、毛先が乱れた箒に乗って私を追ってくる、魔女の姿だった。深い紫の三角帽子を目深に被っているので顔はよく見えない。しかし大きい鼻の下で唇が不気味に弧を描いたのを見た途端、私はまた全速力で走り出した。
 どうして魔女がこんなところに、だなんてもう大した問題じゃ無くなっていた。有り得ない話だが、確かに魔女はここにいる。そして私を追っているのだから。
 しかし箒に乗って私を追う老婆から逃げるのは、至難の業に思えた。
 空から追跡する魔女が私を見失うはずがないし、その反面私はこの森を全く知らないのだ。それに、私は所詮人間なのだから。
すると世界がぐらりと傾き、

「も……無理っ……」

 私の意志とは裏腹に、体が無残にも崩れ落ちる。
 私の足が、体力が、限界を訴えたのだった。
 もう立つ気力も私には残されていない。ただ足を引きずり、少しずつ退歩するだけ、
 魔女の甲高い笑い声が脳天に響く。同時に私は目を瞑った。
 
 その時、脳裏で唐突に浮かび上がる、人影。俗に言うフラッシュバックが、私を襲う。
 流れる金髪に、美しい瞳をキラリと光らせ私を見つめる美少年。冷徹な眼差しも今となっては恋しく懐かしい。

『——俺が守る。お前は一人じゃない——』

 何故だか右手が冷たくも温もりのある大きな手を覚えた。
 私は最後の頼みの綱に縋り付く思いで、彼の名を呼ぶ。
 すると魔女の乾いた笑い声が急に、ムマの動揺を隠しきれていない叫びに変わった。

「リンさんっ!!」
「ちょっ、だ、だめっ……!」

 辺りを包み込む、目映い閃光——