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Re: ☆星の子☆  返信500突破! 嬉しさに感慨無量です。 ( No.511 )
日時: 2012/09/02 21:38
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: 6kBwDVDs)
参照: http://ameblo.jp/suzaku-runa/


 つまり、こういう事なのだ。
 風狼軍は急に強くなったのではなく、他の狼の力を吸い取って自分のものとした。しかし当然弱った狼は少数なので、戦士たちはその事に気付けない。よって敵が強くなった、という認識しか出来ないという真理を利用した戦法だったのである。
 しかし何故他の狼の力を得る事が出来たのか? それはメトロ以外の風狼軍も白い火の粉だった事で証明される。
 “風狼軍は元から一匹だった”のだ。
 白純一族の末裔メトロ。それが幾ら高貴で有名な一族と言えど、群れで行動する狼にとって仲間がいなくては話にならない。
 そこで周りに狼がいなかったメトロは考えた。それなら自分で作ってしまえば良い、と。
 こうして風狼軍が形成された。そう考えるのが一番妥当であろう。
 そしたら火の粉が白かった事や、力を吸い取った事も解明される。そして、敵を倒す方法も。
 そう————

 メトロを倒すのではない。風狼軍(本体)を倒せばいいのだ。

「くっ……」
 
 メトロはもう一度、大きく雄叫びをあげた。それに続き風狼軍も唸り、体勢を低くする。そして次の瞬間、弾丸のように反乱軍に向かって走ってきた。
 また何匹が狼の力を吸い取ったようだ。先程より格段素早さがあがっている。
 しかし、そこには大きな欠点があった。
 メトロは今、火柱によって視界を遮られている。そのため、戦場の様子も分からない。己の感覚だけで、風狼軍を操作しているのだ。
 つまり、“風狼軍の力のバランスが取れていない”のである。
 私に襲い掛かってきた狼は、すばやさは先程の2,3倍だが、防御が弱い。そのため峰打ちで軽く討伐する事が出来た。
 その間にも次々と矢が草原に青い炎をつける。弱った狼はハク率いる戦員に任せるとしよう。
 私は——

「はあぁっ!」

 勢いよく向かってくる狼を斬りつけた。そしてその流れで大鎌を地面と水平に持ち、体ごと回しながら背後にいた敵を討つ。
 一匹、一匹と確実に敵が減っているのが目に見えて分かる。白く輝く火の粉が闇夜に紛れ、まるで星のようだ。
 ——それにしても、何だか楽ね。最初風狼軍が現れたときはどうしようかと思ったけど……戦争のような緊張感が全く無い。相手はホーリー・フェザー率いる政府なのに……まるで今の戦闘が準備運動のようだわ。まさか、まだこれ以上の敵が沢山いるというの……!?
 そう考えると急に背筋に悪寒が走る。思わず後ろを振り向くと、ハクが柔らかな微笑を浮かべ立っていた。

「わぁっ! い、いつからそこに——」
「キラ、あとはメトロだけとなりました。さぁ、一緒に……」
「えっ、もう皆倒したの!?」

 負傷しながらも戦士達は頼もしく頷く。自然と私も笑みが零れた。
 そしてどうやら私も、考え事をしながら大鎌を振り回していたみたい。いつの間にかメトロの前で仁王立ちしていた。
 白い狼は充血した目で私達を睨む。メトロ自信は戦っていないのに、必死に舌を出して息を整えているところを見ると、やはり風狼軍が彼の本体で間違いないようだった。

「ぐぬ……」

 メトロは悔しげに顔を歪ませ唸った。そして次の瞬間、一目散に森林の方へと逃げ出す。

「な……! まだ走れる程の体力が!?」

 私は絶句した。
 流石アステリア一の暗殺軍、風狼軍と名乗るだけある。風に紛れ森林を駆け抜けるメトロを追いかけるのは、悔しいがとても無理があった。
 逃げられてしまう——!?
 その時、私達の後ろにある小さい丘で弓を引く、少女の姿が。

「皆さん、私に任せて下さい。」
「ピア!? 一体何を……」

 小さい体で精一杯腕を引くピア。その手に握られていたのは普通の弓矢ではなく、矢を型取った——

「光!?」
「届け————!」

 ピアノ叫びと共に光の矢が勢いよく森林を駆け抜ける。そして次の瞬間狼の遠吠えが短く聞こえ、同時に光が弾けそれらは一瞬で闇夜に溶け込んだ。
 ほんの数秒の出来事だった。
 すこし間が空き、どこからともなく歓声が上がる。それは瞬く間に辺りを包み込み、私を温かく包容してくれる様だった。

「勝った……」

 思わず涙腺が緩むのを感じ、私は慌ててそれを抑える。
 涙は政府を完全に倒す時まで、とっておかなくちゃね。
 そう考え私は満足げに微笑んだ。そんな私をハクが呼び止める。
 何だか浮かない顔で私を見つめるハクの手には、通信機が握られていた。

「キラ、すみませんがここでピアと一緒に戦員達の手当てをお願いします。決してこの場を離れないでください。」
「……どうして? ハクは?」
「先程ようやく総司令官と連絡が取れたのですが——われわれの本拠地をやられたそうです。未だに援軍を送れずにいる状況だと。」
「そんな……」

 私は口を覆った。本拠地の場所は敵の誰も知らない筈だったのに……。
 ハクは珍しく眉間に皺を寄せ、渋面を作る。

「僕はレオとウル率いる南軍と合流しろとの事です。敵が強敵だそうで……南軍はほぼ全滅、と聞きました。」
「あの双子が敵に押されている!? そんな、冗談でしょ……」

 ハクの目は、笑っていなかった。そして何度も何度も、念押しするように「決してこの場を離れないで」と繰り返す。
 その言葉に、私はただ頷き遠ざかる背中を見送ることしか出来なかった。