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Re: ☆星の子☆  祝! 100話突破記念〜短編3本立て〜 ( No.532 )
日時: 2012/11/23 12:04
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: Uc2gDK.7)

16章     102話「震撼」


北軍 草原 キラ——

「ねぇピア?」

 私は怪我人の手当てをしていたピアに呼びかける。
 せわしなくあちこち動き回っていた少女はいったん足を休ませ、小首を傾げた。
 「なんでしょう?」と尋ねるピアに、私は申し訳ない罪悪感で一杯になりながら手を合わせる。
 ——怪我人が少なかったのが幸いね……。
 そう思って、口を開いた。

「あのね……ピア。私、どうしてもハクの事が気になるの。」

 ここを去る前何度も念押しされた、あの言葉。そして去り際に見せた、寂しそうな瞳。
 あんなハク、初めて見た……。
 何だか、放っておいちゃいけない気がする。心なしか背筋も寒い。
 ピアもその事については同感だったようで、表情を曇らせて頷いた。

「そうですね……あたしも先程のハクさんは不自然だったように思います。」
「やっぱりピアも? ……私、ハクを追って南軍の方に行こうと思う。
 だからお願い! ここを任せても良いかしら?」

 少女は一瞬驚いたが、すぐに柔らかく微笑んで言った。

「もちろん、任せて下さい。怪我人も少ないですし、これならあたし一人で大丈夫。それに……嬉しいんです。こんな非力なあたしに頼ってくれて。だから頑張ります!」
「……ありがとう。じゃあ行ってくる!!」
「はい。あたし達も準備が整ったら、政府塔を目指して再出発しますね。キラさん、気をつけて!」

 頼もしく破顔してピアは私を見送る。
 あの臆病なピアがね……。
 私は小さく笑って駆け出した。目指すは南軍だが、そう遠くないようである。戦っている内に移動したのだろう、西の夜空に赤と青の火花と雷光、そしてぶつかり合う力の奔流が見えた。
 そんな彼らの真上で、白く輝く満月が辺りを照らしている。
 時刻は、間も無く三時になろうとしていた。

Re: ☆星の子☆  祝! 100話突破記念〜短編3本立て〜 ( No.533 )
日時: 2012/11/23 12:05
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: Uc2gDK.7)

南軍 空中 ウル——

 俺達は戦い続けた。遠距離で赤と青の火の玉を投げつけ攻撃し、またある時は拳や蹴りで応戦する。それに対してジオは華麗にかわし、思い出したように突然空に黒い雲を出現させ、稲妻で俺達を苦しませた。勿論傷を癒す事も忘れない。
 くそっ……雷を自在に操れて、自己再生も出来るなんてセコすぎるだろ……!
 俺達も互角にやり合ってはいるものの、強敵なだけに体力の消耗が激しい。一方執事もどき野郎は、疲れとかそういう物が一切無いらしくピンピンしてる。そんでもって不死身ときた。
 こりゃあ本気でやばいな……。
 俺は青い火の玉を投げつけ舌打ちする。
 ジジイ達は一体なにをしているんだ? 本拠地でのさっきの爆発……援軍も遅れないくらい酷い状況なのかよ!?

「レオ! 繋がったか!?」
「いや、まだだ……何度も“思念”を飛ばしているんだが……くそっ! これだから老いぼれジジイは!」

 レオは再度“思念”と飛ばし悪態をついた。ちなみに“思念”というのは自分の意思や言葉を相手に伝えられる一つの技だ。しかし互いの脳波を知る者しか出来ない高度な技術なので、使える者も限られる。反乱軍で言うと空ちゃん以外の東西南北リーダーは皆、戦争時にこれを使い、状況を把握したり情報交換をしている。ジジイとグロさんはこれでいつも会話をしているらしい。
 その時、突然ブツッと音が飛んだような雑音が聞こえた。同時にレオが目を見開き、歓喜の声を上げる。

「繋がった!」
「よっしゃ!」

 俺も“思念”を本拠地の方へ送る。すると脳内に懐かしい砂嵐のようなノイズ音が流れ込んできたので、俺はじっと様子を窺っているジオに構わず宙へ拳を突き上げた。

『誰が老いぼれジジイじゃ、こら。』
「聞こえていたのか……」

 レオと俺は顔を合わせて苦笑した。ようやく体の力が少し抜けた気がする。
 そして口を噤み表情を硬くして、心の中でガルに今の状況を伝えた。『他の戦員は?』と問われたので、ジオに最新の注意を払いながら周囲を見渡す。
 少し離れた所に二匹の黒い犬と南軍はいた。しかしその空の上で様々な色の火の粉が散りゆくのを見て、俺は背筋が凍る思いがする。ざっと南軍の残った戦印を目で追ってみたところ、最初の三分の一にも満たない。その上、敵の犬はまだ二匹残っていた。

「くそっ……こっちに集中して南軍の事が頭になかった……!」

 俺は歯を食いしばって歯軋りした。
 家族が待っている奴らも大勢いたのに! 皆にどんな面下げて会いに行けってんだ……!?
 レオも頭を垂れて悔しげに顔を歪ませる。

「俺達、司令官失格じゃねえか……!」

 と、急に頭上をどんよりとした雲が覆った。
 それに気付いたときにはもう遅く、稲妻が一閃、雷が俺達の体を貫く。

「「ぐあっ!?」」
「君達、俺を忘れないでくれよ。楽しませてくれるんだろう?」

 そう言ってジオが不吉な笑みを浮かべ、最後の止めを刺すべく近づいてきた。
 俺はというと完全に紫電を直撃し、体中感電して痺れてしまったのかあまり身動きが取れない。目の前もチカチカして、立ち上がるのがやっとだった。
 やばい————!

Re: ☆星の子☆  祝! 100話突破記念〜短編3本立て〜 ( No.534 )
日時: 2012/11/23 12:06
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: Uc2gDK.7)
参照: ウル—————っ!!(泣)←

 その時だった。
 俺の後方から小さいナイフが飛んできて、ジオの右肩に当たる。
 不意をつかれ右肩を負傷したジオが眉間に皺を寄せた。しかし新しい敵の介入に喜びを隠せない様子だ。何処か楽しげな声色で尋ねる。

「……誰だ?」
「なるほど……確かに再生が早いですね。流石『銀河の警官』の最高執行部隊隊長、と言った所でしょうか?」

 俺のすぐ後ろに、その声の主はいた。
 流れるような白い髪をかきあげ、いついかなる時もその幼い顔に笑みを絶やさない彼を見て、俺は言い知れぬ安堵感で胸がいっぱいになるのを感じた。
 ハクは苦笑しながら、それでも冷静に敵の能力を探る。
 と同時に本拠地の方から再び“思念”が送られた。

『たった今北軍が第一敵軍を打ち倒した様での。そちらにハクを寄越した。援軍が来るまでの時間稼ぎに過ぎぬが……』
(ハク一人で充分。サンキュー、ジジイ!)
『うむ。これ以上兵士達を減らしてはならん。ハクと力を合わせ、頑張るのじゃぞ。』

 そう言うとガルは慌しく“思念”を断ち切った。本拠地も大変なようだ。
 でもあの老いぼれには感謝しなくちゃな。ここでハクが来てくれたのは、かなり心強い。
 ハクは小柄だが持ち前の冷静な洞察力と頭の切れの良さで、技を外すことはほとんど無い。また、動きもすばやく敵の攻撃を華麗によける。小さいからと言って侮ってはいけない、反乱軍にとって自慢の戦士なのだ。
 そんな彼はふわりと微笑んで言った。

「貴方方がところ構わず火花を散らすものですから、見つけるのにさほど手間はかかりませんでしたよ。しかし大袈裟に力を振りまくのは、やめてほしい所ですね。」
「ははっ、相変わらず優等生ちゃんはキビシーや。」
「ま、全力で戦っていた事は否定しねーけどな!」
「それと……南軍だというのに西の方にどんどん移動していますよ? まぁ、運がよければ西軍の援護を期待出来そうですが。」

 ハクは溜息混じりにひとつずつ注意してゆく。しかし本気で怒っている様ではなく、むしろ楽しげだ。その顔が、不意に引き締まった。
 それが合図となったかのように俺等はジオの方を向いて、再び構える。
 ジオはけだるそうにそれを見つめ、何の感情も無く吐き捨てるように言った。

「どうせ一人増えた所で何も変わりはしない。」
「ハクを舐めたら痛い目見るぞ?」

 俺は真剣な顔で敵に忠告する。そして地を——いや、宙を蹴り加速して走り出した。

「ハク! 作戦A、奴の心臓を狙え!」
「了解。」

 俺とレオはそれぞれ左右に移動し、ジオを真ん中に挟み撃ちのような形になった。
 ハクは正面から、最も良いタイミングを見計らい心臓を小刀で狙う。
 双子の雄叫びが重なった。俺達は先程の雑談時からこっそり溜めていた青い火の玉を、なげるのではなく直接奴の左胸に打ち込む。
 赤と青の炎が融合し、紫色の禍々しい力の奔流が弾けた。
 それは僅か数秒の出来事だった。ジオは鋭い痛みに、群青の瞳をかっと見開く。しかしそれも束の間、その目を細め軽蔑した瞳で俺を見据えた。失望したような顔で、声を低くし言う。

「お前等こそ、どこに目つけているんだ?」
「なに……?」
「ウル!!」

 俺はジオの言葉が理解できず、間抜けた声が出る。と、レオが驚愕に目を大きくし、俺の名を叫んだ。
 何だよ、そんな大声出して……ははっ、そんな地獄でも見たような顔すんなって。
 そうレオに声をかけてやりたかった。しかし上手く言葉が出ない。
 自分の腹を襲う激痛に気がついたのは、少し遅れてからだった。

「————っ!?」

 突如襲った激しい痛み。まるで横っ腹全てを抉り取られたような錯覚を覚える。
 やべぇ、立ってらんねぇ……。
 朦朧とする意識の中、何か異質な物が腹を貫通している事だけは馬鹿な俺にも分かった。
 突然、ぐらりと視界が傾いた。足に力が入らない。そのまま空中に足場を作る事すら出来ず、ただ重力に身を任せ落下していく。
 意識が消えゆく狭間に見えた、レオの顔。遠ざかる双子の瞳は、怒りと憎悪に燃えていた。