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- Re: ☆星の子☆ 祝! 100話突破記念〜短編3本立て〜 ( No.543 )
- 日時: 2013/01/26 17:52
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: jhXfiZTU)
16章 105話「黒駒」
東軍 空、リンVSムマ——
森をどんどん燃やし続ける炎が、私の瞳に映った。それはまるで大きな口を開け牙を剥き、私達を食べようとする魔物のように見える。
赤い。
ただ純粋にそう感じた。どこまでも赤く広がる炎に、私は完全に気圧される。足が竦み、そこに釘を打たれたようにじっと動けずにいたがそれも数秒、ムマの後ろでナイフを構えていたリンさんが私に向かって叫んだ。
「空! 何でも良いから、身を守れるような大きなものを想像しろ!」
「えっ?」
何故だろう——?
一瞬様々な疑問が頭を過ぎったが、考えている暇もない。今の私の突破口は、リンさんだけなのだから。
火に強いもの。勝てるもの。
それはすぐに思い浮かんだ。私は迫り来る炎をじっと見据え、胸の前で腕を伸ばす。そして手の平を前に向け、お互いの親指と人指し指で三角形を作るようにし、強くそれを念じた。
何となく、出来る気がする。そう、体の奥底から未知なる力が溢れ出して……。
思った以上にそれは簡単に出来た。
炎が私の手に触れようか触れまいかの間一髪の時、私はすっと周りの気温が二、三度低くなったような錯覚に囚われる。
「やった……。」
急に力が抜けた私は、その場にへたり込んだ。その頭上を、激しい炎が舐めまわすようにして森を燃やしてゆく。
しかし私は不思議なくらいに何もない。後ろを振り返ると、同じように無傷のリンさんがとても近くに立っていて、少し驚いた。
リンさんは切れ長な美しい瞳で周りを見回す。
「まさかこんなに丈夫な氷のドームを顕現させるとは……これなら当分安心だな。」
次に私を見て優しく微笑んだ。
「空、お前のお陰で助かった。」
「で、でも私、何もしてないよ……!?」
ありえない。
私は真っ先にそう思った。
私の頭を優しくなでる大きな手。その手がリンさんの物だという事実を飲み込むのに数秒かかり、これが夢じゃないと信じるのにも数秒かかった。
そしてようやく動いた私の口がポツリと呟く。
「……リンさん、優しくなったね。」
「そうか?」
リンさんはわざととぼけた顔をした。
そこには私の学校に転校してきた時、女子の恋文を破り捨てた冷酷な面影はない。今のリンさんなら、もう二度とああいう事はしないのではないだろうか。
ふっと先程のリンさんを思い出し、まだ頭部に大きな手の温もりと感触がある事に気づいて、私は顔が熱くなるのを感じる。頬に手を当て一人動揺していると、少し拗ねたような表情のムマが目に入った。
「何よ、二人でイチャイチャしてくれちゃって……。ここは私の世界なんだからねっ! この氷だって、私が消そうと思えば消せるのよ!?」
「それは嘘だな。」
ムマの少し脅しが入った言葉に、リンさんが冷たく言い放つ。
ムマが少し「うっ……」と怯んだのを見逃さずに、彼は続ける。
「この世界で夢主はお前と同等の能力を使えるようだ。つまり空がこのドームをいらないと思わない限り、これが消えることは無い。違うか?」
「——何でっ、いつから分かったの!?」
「『銀河の警官(ギャラクシー・ポリス)』に所属していた時から、人の夢の中に入りその空間を操れるものがいるという話は聞いていた。その情報はあくまでも信憑性に欠ける物だったし俺も信じてなどいなかったが、空にここに呼ばれた時、それが確信に変わったんだ。お前の能力の正体もな。」
- Re: ☆星の子☆ 祝! 100話突破記念〜短編3本立て〜 ( No.544 )
- 日時: 2013/01/26 17:55
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: jhXfiZTU)
リンさんの弁舌に、ムマが唇を噛み締め俯く。
えーっとつまり……ここは私の夢の中? で、私とムマさんの思い通りに操れる、って事?
「まぁそんなところだ。」
リンさんが次に私に向き直って言った。また心を読まれていたのだろうか? そう考えるとあまり良い気はしない。
「ここはお前の夢の中だ。だがここは感覚があるし俺も実体のまま召喚されたのだから、夢に擬似した異空間が正解だな。
それと夢はコントロールできるという話を聞いた事はあるだろう? 俺がここへ来れた理由やこの氷のドームも、ようは空が全て望んだからなんだ。」
「あぁ、それで……」
妙に納得する。思えばさっきのお菓子の家や魔女も、全て自分が一瞬でも考えた物達だ。
「つまり……ムマさんは、夢に入った人達が一度は考える悪いものに化けて驚かしていたの?」
「そーいうこと。まぁ驚かすことが目的じゃないけどね。
人は誰だって、知らないところに一人でいたら悪い想像をするものよ。それに化けて主導権を握ればこっちのもの。あそこで人を召喚させるとは、思ってもみなかったけどね。」
ムマは苦笑してそう答えた。
そして急に私に近づくと、胡乱な視線で瞳の奥をじぃっと見つめる。
「それにしても……あんた本当に人間の子? 特別な力とかは今のところ感じないけど……私だってこの世界に生物をそのまま召喚させるのは難しいのに。それにこの氷のドームも、普通の人間じゃ何人いてもこんなに立派に作れないわ。
やっぱりH・F様に差し出したほうが、良いかもしれない。」
「えっ。」
「そうはさせない。」
リンさんが私の腕を掴み、自分の元へと引き寄せる。
それを見たムマは呆れたように溜息をついた。そして腰に手を当て、まるで聞き分けのない子供に言い聞かす母親のように、一言一句ゆっくり話す。
「分かってるの? ここは、私が作った、世界。その子を連れてきたのは、私。ここから出る方法を知るのも、私だけよ。」
「ぐっ……。」
「それか、ここで戦争終わるまでじっとしていようか? うん、それが良いわ!」
ムマは手を打って破顔した。どうやら本当にそれが最良だと思っているようで、パチンと指を鳴らし可愛いピンクの丸テーブルと椅子を三つ出現させる。そして優雅にお茶を飲み始めた。
そんなムマの姿に私たちが唖然としていると、ムマはなんでも無いようにお茶を勧めてきた。
「あんた達も座れば? ほら、お菓子もあるし。お腹空いているでしょう?」
「……うん!」
実はずっとお腹が減っていたのだ。耐え切れなかった私はムマの横に座って、お菓子の山に手を伸ばした。マカロンだ。
一口食べると、濃厚な苺の香りが口いっぱいに広がった。おもわず顔を綻ばせる。
すると横にいたリンさんも渋々ピンクの椅子に座り、呆れた顔で言った。
「分かっているのか? 俺たちは敵同士なんだぞ。それにこっちはこんな所でお茶している場合じゃないんだ。」
「わっ、これ美味し〜い!」
「こっちにクッキーもあるわよ。」
「……人の話を聞け。」
リンさんが顔を顰め困っているのを見ると、ムマは可笑しそうに小さく笑い「大丈夫よ」と自分の能力の説明をし始めた。
それによると信じられない話だが、ここでの一時間があちらではたったの一分なんだそうだ。
「聞いた事があるでしょ? 私達が覚えている夢っていうのは、起きる直前、それも一秒にも満たない時間に見ているの。ここも要は同じ話よ。だからゆっくりしていけば良いわ。
それに私は、あんた達を殺そうなんて思ってないし。」
「……何故だ?」
これには少し面食らった。リンさんも不思議そうに聞く。
でも確かに、さっきまでは凄いさっきで魔女に姿になってまで私を追っていたのに、今のムマからは戦意すら感じられない。考えてみればリンさんが来てから、少しずつ物腰が柔らかくなったように思う。
……何だか妙な気分だ。
当のムマは指を唇に当て、考え込むように唸る。それを見て本当は理由なんて無いんじゃないかと思った。先程からの言動を見ても、かなり気分屋のようだし。
「う〜ん……正直言うと私、この戦争どうでもいいのよね。生活に不都合があればここに来ればいいし、この珍しい能力のお陰でそれなりの待遇は受けられるし? だから別に、あんた達のこと殺す必要ないもの。」
「……じゃあ、どうして戦場に?」
「面白そうだったから。」
開いた口が塞がらなかった。
リンさんやヒナさんは仕事にとても真面目だったけれど、ムマを見ていると最高執行部隊なんて名だけで本当は能天気な人達の集まりなのかな、とか思ってしまう。本気になったら強いんだろうけど。
- Re: ☆星の子☆ 祝! 100話突破記念〜短編3本立て〜 ( No.545 )
- 日時: 2013/01/26 17:55
- 名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: jhXfiZTU)
……そういえば、最高執行部隊って何人くらい居るのかな。
「あの……質問いい?」
「何でもどうぞ。」
「その、最高執行部隊って、何人くらい居るの?」
「えーっと……五人? あ、シャドーが三匹いるから八人なのかしら。でもシャドーは——の下僕だから……やっぱり五人ね。」
「え……?」
聞き慣れた言葉を耳にした。
その名前が、何故今ここで出たのか。しかもムマはその人が、最高執行部隊の“シャドー”とか何とか言うものの、主だと言っている。
咄嗟にリンさんの顔を伺うと、リンさんもショックが大きいようで暫くムマの顔を凝視していた。そして次に額に手を当て、重苦しい溜息をつく。
一瞬でその異様な雰囲気を作った張本人のムマは、ようやくその原因に辿り着いたようで、「あっ」と口に手を当てた。そして少しの悪びれもなく、
「ごめんなさい、これは企業秘密だったわ。でももう話しても良いでしょ? そろそろ彼も動いている頃だし。」
「え、ちょっと待って……どういう事……?」
頭の整理がつかないと言うよりも、私の体がその事実を受け入れられない。
もしかしたら単なる聞き間違いかも……。
そう思い込もうとしたが、リンさんの渋面を見れば聞き間違いでないことは容易に見て取れた。
ムマの代わりにリンさんが、重い口を開いて言う。
「……つまりスパイだったんだ。
ずっとおかしいと思っていた。何故政府軍は、反乱軍が今日戦争を決行することを知っていたのか。そして何故それが始まる前に、大規模な爆発を、それも一部の者しか場所を知らない反乱軍本拠地で起こせたのか……。」
「つまり反乱軍の情報をその人が、裏でずっと政府軍に伝えていたって事……!?」
目の前が真っ白になった。
スパイ——そんな風に彼が見えた事など無かったし、彼も私にとても親切に接してくれた。それに、あの優しい笑みでいつも場が温かくなったではないか。
それも全部、嘘だったの————?
「ムマさん、もう一回その人の名前言って? ちょっとまだ、信じられないから……。それにもしかしたら、ただの聞き間違いかも……。」
言いながら、自分は今更何を言っているんだろうと思った。
でも、やっぱり希望は捨てきれない。
ムマは困ったように眉を寄せ、口を開く。
「だから、反乱軍の黒駒は————————ハクよ。」