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Re: ☆星の子☆  祝! 100話突破記念〜短編3本立て〜 ( No.551 )
日時: 2013/02/09 22:40
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: jhXfiZTU)

16章     106話「総司令官の心情」


反乱軍 本拠地——

 事態は思った異常に深刻だった。
 戦争をこちらから仕掛ける前に、敵が動いた。これは予期すべき範囲内だ。また、政府軍の戦争開始合図が儂らの本拠地での大爆発だった。これも……まぁもっと予想しておくべきだったのじゃろう。
 しかしこの場が今、混沌の渦と化しているのにはもっと別の理由があった。

 儂は声を張り上げ、次々と戦員達に指示を送る。その目の前を、数人が救急箱や包帯、松明や拡声器等を持って慌ただしく走っていった。
 怪我人は本拠地に残った者の、三分の一にものぼる。
 彼らの手当てをしなければ援軍が送れない。一刻も早くレオ達の戦力を高めるべく、儂はここに居る者を総動員して怪我人の応急手当をするよう言った。が、ほとんどの戦員が本拠地を突如襲った爆撃に対する驚きと戸惑い、更には傷が酷い者を実際見てのショックと恐怖で、即座に動けなかったのである。
 ここに居る隊員たちの大半は、普通の民だ。
 儂のような元警官と違い、戦い方もまるで知らなければ経験や知識も浅い。
 そんな彼らだったからこそ、この危機的状況に直面しても何も出来ずにいた。
 これは儂や政府軍との、圧倒的な“順応性”の差だった。

「総司令官! ようやく配線が繋がったようです!」
「随分遅かったな……ご苦労じゃった。グロ、悪いが見に行ってくれんか。」
「……」

 横で音もなく立っていたグロが、黒いフードの奥に隠れている顔を数ミリ下へ引いた。彼女なりの肯定の印だ。
 儂はまるで空気のように希薄なグロの、遠ざかっていくフードの背を眺めて溜息をついた。
 ——あやつももっと、皆と関われば良いのじゃが。
 過去にあった“あの思い出”が、今もまだ彼女の時間を止めてしまっているのだろう。この戦争が終わったら、一度話し合ってみた方が良いかもしれない。
 そんな思案に耽るのも数秒、儂はまた本拠地と士気の復活に力を注ぐべく顔を上げる。と、黒いフードを被った巨人が驚くほど近くに居たので思わず声を上げて後ずさった。

「ぬぉっ!? ——あぁ、グロか。早かったのう。しかし急に現れんでくれ、心臓に悪い。」

 そう苦笑して言うと、グロは身動き一つせず代わりに“思念”から脳に直接話しかける。

『同行。』
「む、何か問題でもあったのか?」

 この質問には何も答えず、グロは着いて来いとばかりに通路へスタスタ歩いていく。儂も急ぎ足で後を追った。


「これは……!」

 その数分後、儂はモニターの前で己の目を疑った。そんな儂を照らすように青白く光を放っているモニターには、数百とある赤と青の丸い光が点滅を繰り返している。
 これは味方と敵の数、そして生死を一瞬で確認できる機械である。我々はこれを≪C・M(コンバット・ムービー)≫と呼んでいた。青い点が反乱軍、赤い点が政府軍を示していて、この光が一つ消える度に誰かが一人死んだという事になる。
 先程の爆撃により一度ショートしてしまったこれだが、今さっき配線が復活し、戦員の無事を確認出来るようになったのだ。しかし……

「何故よりによってレオとウルのいる南軍が……!?」

 一際光の消滅が激しい。それも青い点が秒単位で消えてゆく。

「それに比べ敵の数は三。一人減ったとは言え、こんなに圧倒的な速度で反乱軍が消えてゆくものなのか……?」
「恐らく、敵は南軍が一番戦力として堅いと知っていたのでしょう。だからそこに、それを上回る戦力を送った……。反乱軍の何者かが政府にそれらの情報を密告していたと考えれば、信じ難い話でもありません。」

 横で見ていた隊員の一人が、口を開いた。
 それを聞いて儂はますます頭を悩ませる。

「うむ……それはあまり考えたくなかったのじゃが……。儂が見る目を誤ったという事か? しかし一体誰が——」
『援軍用意。』

 グロが珍しく焦ったように“思念”で語りかける。儂は空を仰いで唸った。
 ここはまだ、援軍を送れるような状況では無い。儂が行けば一番早いのだろうが、そうなると本拠地内がまた不安定になる。
 儂はちらりと尻目で≪C・M≫を見た。

「おぉっ?」

 目を見開く。北軍が敵を倒したようだ。その辺り一帯、赤い点が綺麗さっぱりと無くなっていた。
 北軍というと——キラやハク達か。

「そうじゃ、ハクを送ろう!」
『ハク…………!?』

 儂が手を叩いてそう言うと、グロが少し身じろぎした。

「……何か問題でもあるのか?」

 グロがこんなに反応するなんて、何かあるのだろうか? 少し不安になって聞いてみたが、グロは『いや……』と言葉を濁す。
 そして儂がハクに連絡を送り終え、来た道を戻っていると後ろで音も無く歩いていた彼女自ら『ジャッカル』と話しかけてきた。儂をこの名で呼ぶのはグロだけである。

『我等も早急に南へ向かおう。』

 その言葉にただならぬ空気を感じ取り、儂は重く頷いた。
 そしてここだけの話、グロとこんなに話したのは久々であったので少し……いや、かなり嬉しかった。