コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: ☆星の子☆ ( No.779 )
日時: 2014/01/06 17:29
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: nEqByxTs)

17章     109話「赤の女戦士」


南軍 空中 キラVSハク——

 ユラはとても優しい子だった。
 妹と言うよりも親友のような関係だった私達は、幼い頃からずっと一緒だった。私は体を動かすのが好きだったけれど、姉と打って変わって物静かだったユラはいつの日か本の虫となっていた。だから本で得た知識と、実際に目で見た体験した事を私達は分け合い共有する事によって、より豊富な知識を得ていた。
 ある日突然、ユラが「学校へ行きたい」と言い出した。もっと多くの事を学びたかったのだ。しかし家には学校に送るだけのお金が無かった。
「お父さんは家に帰らず働いているのに、どうしてこんなに苦しいの?」
 それが妹の口癖であった。
 やがてユラはその原因を突き止めた。“政府による”不合理な強制労働、そしてそれに見合わない安い賃金。そう。全ての原因は政府であった。
 それを知った日から妹は、人が変わったように動き回った。
 幼い身でありながら持ち前の豊富な知識を生かし、大勢の人々を相手に政府を批判する演説を行うと、彼らを引きつれデモも行った。
 ——妹が殺されたのはそんな日だった。
 いつものように遅くに帰ってきた妹を迎え入れようと家の扉を空けた瞬間、私の目の前でそれは散った。皮肉にも鮮やかな火花が舞う中、私を欺くように敵の背中だけが目に映る。
 唯一無二の私の理解者。誰よりも大切な妹がいなくなったあの日から、私は————

 復習のためだけに反乱軍へ入った。
 いつの間にかそこが居場所となった。
 理解者も増えた、好きな人も出来た。
 毎日が充実していた、でも復讐心が消えることは無かった。
 その為だけに戦い続けた。
 戦って、戦って、戦って。その敵との戦闘に備え、戦って戦って戦って戦って——
 でも、私の前に居る敵は誰?
 私が彼に武器を振り上げているのは何故?
 私の妹を奪ったその日から、ずっと、ずっとずっとずっとずっと、憎み妬み恨みあの血の夜に見た背中だけを追い続けていた自分は——————

「あ゛あああああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあぁぁあああああっ!!」

 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だハクがそんな訳無い嘘だ嘘だ、これは悪い夢よそう夢、夢夢? 私はハクが、でも何の為に反乱軍に、好きよ、復習する為に、ユラの仇を取らなきゃ、そうだ、私はこの星を取り戻す、目の前に居る少年は敵敵敵敵、そう敵だ、だから私がやらなきゃ、戦わなきゃ戦わなきゃ戦わなきゃ————でも。

 ——————————好きだよ、ハク……。

Re: ☆星の子☆ ( No.780 )
日時: 2014/01/17 08:08
名前: (朱雀*@).゜. ◆Z7bFAH4/cw (ID: HDoKOx/N)

南軍 空中 レオVSジオ——

 耳を劈くような悲鳴が辺りを包み込んだ。言い知れぬ不安が俺を襲う。
 キラ——!?
 悪寒が背を這った。目の前の光景はとても信じがたく、悪い夢であって欲しいと心の中の弱い自分が叫ぶ。

「理性を失っているな。」

 隣でジオが呟いた。俺は素早くジオの方を顧みる。

「心理をぐちゃぐちゃにかき乱すのはハクのいつもの手口だが、あそこまで壊れた奴を見るのは初めてだ。」
「お前っ……!」

 その嫌に沈着な態度と言葉に怒りが込み上げる。
 咄嗟に俺は後先考えず地を蹴った。加速してジオとの距離を縮め、胸ぐらを掴みあげる。
 俺は声を低くして唸るように言葉を吐き出した。

「今すぐ二人を止めろ。」

 執事服に身を包んだ男は何の表情も顔に映さず、無感情な瞳でただ俺を見下ろす。「聞こえねぇのか!?」と叫ぶと深く息を吐き出し彼は言った。

「手遅れだ。もうお前らの声は彼女に届かない。」
「なんだと——っ!?」

 刹那、突発的な暴風が俺たちを襲った。その圧倒的な威力にジオの服を掴む俺の手が離れ数メートル吹き飛ばされる。
 その暴風を生み出して原因は、すぐ近くに居た。
 キラの悲鳴が徐々に、獣の雄叫びのような物と化していく。同時に、彼女の体からまぶしい光が放たれる。
 ——あの光は俺たち『アステリア』の民が変化する時に放つものだ。キラは一体何になろうと————!?

「獣化だ。」

 横で悠長に見物を楽しむいけ好かない男が、好奇心の入り混じった声を上げた。
 獣、化……!?
 俺はキラを見た。いや、正確には、元は彼女だった怪物を。
 赤く純粋な光を放っていた瞳が、獰猛にギラギラと光っている。皮膚は黄色と茶色の混ざったふさふさの毛並みで覆われており、爪が鋭く伸びていた。唯一そのままである真紅の赤髪が、まるでたてがみの様である。
 腰を低くしてキラは唸った。鋭く尖った歯が月光に反射してきらめく。
 そこにはもう、華奢で明朗な少女の姿は——無い。

 再度、闇夜に咆哮が響き渡った。
 ジオがすかさず彼女と距離をとる。
 キラは力強く宙を蹴って弾丸のような勢いで加速した。そして腕を振り上げ高く跳躍する。その鍵爪は真っ直ぐとハクの首筋へ向かって——

「やめ——っ」

 咄嗟にやめろと言いかけて詰まった。
 ハクは敵だ。始末しなければならない対象なのに俺は何を……。
 金属同士が擦れる嫌な音で、俺は我に返った。見ると、ハクの小刀がキラの鋭い爪を間一髪で受け止めたようだ。摩擦により火花が散る。

「ふふ、はははははっ」

 鉤爪を跳ね返し距離を置いて、ハクは高らかに笑った。

「そう、それだ! もっと僕を楽しませてくれっ!!」

 彼の挑発が聞こえたかのように、赤髪の獣は大きく口を開け再度吠える。憤怒と憎悪、そしてどこか切なげな雄叫びが闇夜を劈いた。
 全長2mほどあるだろうか、その大きな四肢を持った獣が、今度こそはと鋭い犬歯をぎらつかせ再びハクに跳びかかる。ハクも不敵な笑みを浮かべ、短刀を4つ器用に持って構える。
 そして、激しく熾烈な攻防戦が始まった。
 動きが早すぎて目で追う事もままならない。しかし、決着はすぐに見えてきた。

「おや。」

 ジオが目を見開いて意外そうに呟いた。
 キラが押している。
 持ち前の動きのキレの良さと粘り強さが、獣化して得た速さと強さに充分生かされていた。着実にハクの体力を削ってゆく。既に敵は傷だらけだった。
 長い間彼女の中で根を張っていた復習という名の執念が、優ったのだ。
 しかし何故だ?
 ハクは一向に余裕の笑みを崩さない。まるで勝利を確信しているかのように。
 赤髪の獣は大きく仰け反って再度吠える。

ウガアアアァァァァァッ————

 凄まじいその咆哮は華奢な少年を吹き飛ばした。ぼろぼろになったその体は。抵抗も虚しく宙を舞い地上へ落下していく。獣化したキラもまた、ハクに飛び乗って共に降下する。鋭い鉤爪が彼の白磁のような首筋を捉えた。
 キラ、頼んだぞ……! ジオは俺が——!!
 俺のまた、全身に力を込めその中にある“光”を具現化させる。そして顕現させた獅子の像を背に纏い、執事姿の男を目掛け跳躍した。男も不敵な笑みを浮かべ、それに呼応するように大気には電流が走り火花を散らす。
 そして再び俺とジオが拳を交わす————その瞬間。
 敵の体が、目に見えぬ何かによって遠く吹き飛ばされた。

「なっ……!?」
「——レオ、下がっておれ。」

 覚えのある、威厳に満ちた思い声が俺を制す。懐かしい匂いがする。
 俺は驚いて背後を振り返った。すると左目の縦一文字に伸びる傷がまず目に付き、安堵に思わず俺の体の力が抜ける。
 彼は「もう大丈夫じゃ。」と愛嬌のあるえくぼを見せて不敵に笑った。