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Re: 何かこの動物、喋っちゃってるんですが。 ( No.6 )
日時: 2010/07/24 14:21
名前: クレイア ◆PT5MXLpFOU (ID: CkThpPJM)

誰だってさ、目の前にいる動物が人語を話したらそりゃびっくりするよね。

いや、いきなりオカシイことを言ってるのは分かるよ?でもさ、だけどさ————

「おいなんだよ。さっさといつもの煮干しよこせよ」

実際に喋ってるんですよ。目の前にいる猫が。



会話その1「何かこの猫、喋っちゃってるんですが。」



私の名前は鈴木 恵理(すずき えり)。

ただの猫好きな中学2年生です。いつも登校や下校途中に、野良猫にえさをあげるのが趣味なのです。

今日も下校途中に、毎日のように餌をもらいに来るアズキ(♂猫)にえさをあげようとしたら、

「おいなんだよ。さっさといつもの煮干しよこせよ」

可愛らしい少年声ですっげー無愛想に言われた。口悪っ!? 

じゃなくて!!!

え? え? ちょっとまって。

「ア……。アズキ……?」

「おう。何だよ鳩が豆鉄砲食らったような顔して。喰らうぞ!」

う……うそ……。

「アズキが喋ってるぅ————————!?」

街中で思いっきり絶叫してしまった。いや、それは仕方ないことじゃん!

「うっせっ! 叫ぶなよ! それより煮干し!」

お前煮干しにずいぶんこだわるな!そう心の中で私は突っ込むが、

アズキったら前足で私の足ちょいちょいしてくるー!やだ可愛いー!

「はいどうぞv」

「おっ、さんくー」

はっ! つい条件反射で煮干しを与えてしまった!





そんな訳で。

私は(概ね)落ち着きを取り戻し、アズキに話を訊くことにした。

「ね、ねえアズキ?」

「何だよ」

「単刀直入に訊くけど、何で喋れてるの?」

「神様にお願いしたらできた」

………………はい?

「え? 何て? 神様?」

「うん。神様」

私が上げた煮干しをもくもく食べながら、アズキは坦々と答える。

「昨日だったかな。オレ、車に轢かれたんだよ」

「はいいぃ!?」

何この子! 言うコトアブノーマルなことばっかり!

「でさー、けっこう重傷で、満身創痍だったわけ。ぼんやりしてたら突然真っ白い景色になって……」

そこからのアズキの話をまとめるとこうだった。




〜アズキside〜

真っ白い景色になった途端、突然声が聞こえた。

そこにはその景色に溶け込むように、これまた真っ白な猫がいた。

凛々しい声で、その猫が言葉を発する。

『そうとう重症のようだな』

『何か分かんねーっすけど……あんた誰っすか?』

『私は……そうだな。神とでも名乗っておこうか』

『じゃあ……俺は神とでも呼ばせていただきますわ』

『突然だが……お前はもう死んでもおかしくない状況だ』

『うわ……。本当に突然……』

『そのお前に一つ問いたい。お前はまだ、生きたいか?』

オレは重たい頭で、少し考える。すぐ答えは出た。

『オレ……。毎日煮干しくれたやつがいるんす。バカっぽいけど、そいつ、オレのこと大好きだったし……
 オレも大好きだった。……だから、何か礼がしたい。生きたい』

オレがそう言うと、神様はふっと笑った。様な気がした。

『ならば、生かしてやろう。おまけも付けてやるぞ』

そうしたら、今度は真っ白い世界がだんだん薄れて行って、

「オレは復活したわけ。そんでその神様が言ってた『おまけ』っつーのが人が話せる奴みたいなんだわ」




〜恵理side〜

「アズキ……!」

私は今、猛烈に感動していた。

「な、なんだよ」

私の迫力に、少しアズキが後ずさる。

「何って! 26行前! アズキ、アズキが私のこと『大好き』って……!」

「んにゃっ! あ、あれは……」

ぎゃあああああああ————!! まさかそんな!

人語を話す猫さんのツンデレがこんなに萌えるだなんてー! みなさん! アズキがデレましたよー!

「落ち着けっつの!」

ぐはっ! アズキの必殺猫パンチ! 眉間に入りましたー!

「まーこうやってどっかのアホにも突っ込めれるし、けっこー便利だな、人語話せるって」

あう……。最終的にはそんな捉え方しちゃうのねアズキさん……。

「そう言えば、猫語?は話せるの?」

「ああ、出来るっぽいぜ。のら仲間とも話せたしな。オレってバイリンガル!」

そう言って誇らしそうに胸っぽい物を張るアズキ。うんごめん。可愛すぎる。

「ていうかアズキ君、バイリンガルなんて言葉、よく知ってたねー。さっきもことわざみたいなの使ってたねー」

「そのいいからすっげームカつく……。猫なめんなよ!? 長い間人間と暮らしてたらなぁ、それなりに分かるんだよ!」

「ま、マジで!? じゃあなんで人間には猫語とか分かんないの!?」

「あー、あれじゃね。深層心理的な問題じゃね」

やばい。アズキがすっごいエリートに見えてきたんだけど。

「まー、恵理ももう大丈夫だろ。普通に話してんじゃん、オレと」

そう言いながらアズキはんーっと伸びをする。

「私は慣れたよ……。けどさ、他の人にはそんなひょいひょい話しかけちゃだめだよ? 大混乱になるから!」

「へーへー。分かってまーすよー」

飄々と答えると、アズキはテケテケと歩いて行ってしまった。くそう、煮干しが済んだらイイってのかこの野郎!

しばらく、私はアズキの去って言った方向を見つめていた。そして、嘆息する。

「なーんかすごいことになっちゃったなぁ……」

自称猫好きの普通女子中学生は、空を見上げてそんな事を呟くのでした。