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Re: トランスミッション・データフローム ( No.253 )
日時: 2011/05/06 18:01
名前: ハッチしゃn (ID: X96rB3AK)

 #04 

 照明のない観光ホテル七階の中で、尾崎は息をひそめていた。
 特に細かく言えば、尾崎はロックが掛っていない部屋へと逃げ込んだのだ。窓から照らされる日光だけが、部屋の照明となっていた。四方に広がる、ベッドとソファ以外何も置かれていない一室は、わずかな音だけで武装部隊に見つかってしまうのではないかと思うほどの静けさだった。
 尾崎は自分の身近にあった椅子にまたがり、一息吐いて落ち着く。
 右手で掴んでいる無線機は、武装部隊の物だ。廊下で部隊との戦闘後に尾崎へと戦闘通知が送られてきた物と同一である。尾崎は未だに痛む手を一瞬見つめつつ、持っている無線機へと視線を向ける。
 (くそ、あれ以降なにも連絡が来ない。本当にあいつらがこっちに向かってるっていうなら、もう一度くらい連絡してきたっていいだろうに)

 リーダーを含む武装部隊と徹底抗戦する覚悟は決めたが、かと言って『常に襲撃を受ける側』であるのは好ましくない。能力をフルに使ってしまったら、すぐにバテてしまう。リーダーだけならともかく、部下の武装部隊で無駄遣いするのは避けたい。そう考えると、戦闘の主導権はこちらが持っていた方が良いに決まっていた。

 もちろん、もっとも大事なのはこのロンドン観光ホテルから外に脱出する事だが。
 (このホテルからの脱出も重要だ。なんてたって、この状況も分からなければ、外の状況も分からないんだからな。けど、脱出したいのは山々だが、今の時点であの黒ずくめの部隊の追撃は切っておくべきだ。むしろ倒さずに出て行った方が、最終的に危険性が増して来て、また俺らの前に現れてくるはずだし)

 倒さずに脱出した方が難易度は高くなる。今度はホテル内だけではなく、ロンドンの中での戦いになってしまう。一人二人倒すのに十人ほどの部隊員を送ってくるのだ。リーダーを潰さずに出て行ってしまったら、ロンドン全域へと数百人という部隊員を送ってくるかもしれない。そうなったら、元も子もないのだ。
 そう言った意味でも、これからの戦闘では、『いつ戦っていつ避けるのか』が重要となる。
 (どうする? 『いつ』ってたって、今しかない。今しかない……。じゃあ、まずは、『襲撃をする側』でもう一回、正面突破するかッ!)

 尾崎は、自分の手で気を失わせた部隊員の装備していた銃を思い出し、座っていた椅子から立ち上がって、この部屋の出口である扉に歩み寄る。そして、ドアノブを開ける方向に回して廊下へと音を立てずに出る。
 そこに広がるのは、尾崎が殴り倒した武装部隊員である。まだ気を失っているようで、持っていたはずのマシンガンが、放り投げられていた。それも幸運と呼べる。そのマシンガンは、ちょうど尾崎の足の先へと放り投げられていたのだ。

 初めて触る銃であり、基本的な名称は“機関銃”であるが、尾崎は少しの緊張と緊迫を感じながら、それを拾い上げた。
 これを使いこなせるとは思えない。だが、これを使わなければ、武装部隊員を倒して、このホテルから脱出が出来ない。
 尾崎は拾い上げた機関銃を見つめ、黒く冷たく輝く鉄の感触を味わいながら、持っている部分の弾装填部をしっかりと音が『ガチャッ』と鳴るまではめた。迫りくる不安と危機感に闘争心を湧き上げながら、
 (やるしかねぇ、やるしかねぇよな!)
と、機関銃を廊下の死角へと構えた。