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男性Yの異世界譚 2-END ( No.13 )
日時: 2010/07/28 22:19
名前: 村人A ◆UcTzrn55Fk (ID: VppVA6tq)

男性Yの異世界譚 2-END


「逃げろ!」


「嫌です!」


「何言ってるんだよ! 君がアイツに適うわけないだろっ!!」


「わかってますよ!!」


 そう言うと彼女はグッと僕の前に出てきて、両腕を広げた。
 まずい。これじゃ二人共殺される。彼女を逃がすにも本人が逃げる気ないし、今の僕じゃ彼女の身代わりになることも難しい。またあの時と同じような事もできないし、なんてったって武器になるものは周りにない。


『■■■■■■■オォォ!!』


 化け物が唸り声を上げ、牙と同じように鋭くとがった爪を向けて、容赦なく僕達に襲い掛かってきた。


——死んだ。


 頭の中にそんな言葉が過ぎる。迫りくる化け物と、怖いにもかかわらず両腕を広げて僕を守ろうとする彼女。それは、まるで映画のワンシーンのようで、僕はそれを他人ごとのように見ていた。すべての動くものがスローモーションをかけたかのようになり、確実に僕達は死へと向かっていた。


 あとわずかまで迫ってきた化け物に対して僕は目を瞑る。


 ——17年間生きてきた僕の人生はこれで終わるのだろうか……。


 つい数時間前まで過ごしていた平凡な日常に懐かしさを感じる。
 僕そうあきらめた——瞬間。何かが風を切る速さで顔の横を通りかかった。
 それは化け物に向かって、綺麗な直線を描いて飛んでいき、やがて化け物の眉間に鮮血の花を咲かせる。


『■■ォ!!』


眉間になにやら棒状の物を生やした化け物は短い悲鳴を上げ、やがてその大きな体は地面へと倒れた。


「…………」


しばしの沈黙後、さっきまでかかっていたスローモーションはもう解けていた。


 ——何が……起きたんだ? 何で、化け物が倒れているんだ?


「ミル! 大丈夫っ!?」


 一連の出来事に唖然としていた僕達に、いや、僕の後ろにいる彼女に誰かが声を掛けた。僕は後ろを向き、声の主を見つけるとそこには、大きな弓を構えた状態で立つ一人の女性がいた。
綺麗な黒髪を肩よりも少し上まで伸ばし、ピン止めで長く伸びた片方の髪を止めている。目鼻立ちは、僕の後ろにいる少女と同じように、綺麗に整っていて、後ろの少女が可愛いというなら、今僕の目の前で弓を構えている彼女は「綺麗」というべきだろうか。


「姉さんっ!!」


 僕がそんな美女に見とれていると、さっきまで唖然としていた少女が弓を持つ女性に向かって走りだし、そして飛びついた。


 ——って……お、お姉ちゃん?


「ミル! 大丈夫だった!? 怖くなかった!?」


「怖かった……すごく、怖かったっ」


「もう、大丈夫だから。怖くないからね」


 ……なんですか、これは? 今、僕の目の前で熱く抱き合っている美女美少女がいる。いや、彼女達の話によると二人は姉妹なんだろうけど、目の前で、なんかこう、二人だけの世界を作られてしまうと、僕はなんなんだろうって思うわけで……。今の僕は蚊帳の外って感じだ。


 ——疲れた……。


 僕は目の前の光景に、今まで緊張や何やらで張っていた気が緩み、急に眠気が襲ってきた事を感じる。
次第に視界が狭まっていき、視線がどんどん下へと下がっていく。たぶん、今僕は地面へと倒れようとしているのだろう。さっきまで聞こえていた周りの音が今は何も聞こえず、かすかに見える先には、僕に気が付いた少女達が驚いた顔をして、何かを言っている姿だった。


 ——こうして僕は、地面に倒れた衝撃と共に意識を手放した……。


【男性Yの異世界譚 第二話 終】