コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 男性Yの異世界譚 3-1 ( No.14 )
- 日時: 2010/08/12 16:48
- 名前: 村人A ◆UcTzrn55Fk (ID: VfitXk9z)
男性Yの異世界譚 3-1
暗い。暗い。何も視えない。何も聞こえない。そんな暗闇に包まれた空間に、一つの光が現れた。僕は意識をその光に向けると、次第に光は大きくなり、それと同時に、微かにだが、どこからか音が聞こえる。
——これは、小鳥が鳴いてる?
僕はその、チュン、チュンと、規則正しいリズムと、可愛らしい鳴き声に、意識を覚醒させつつ、閉じた瞼をゆっくり開けていく。
「ん……朝? ふっ……ふぁ」
欠伸をしてぼやけた視界から見えるのは、いつも見慣れた、自分の部屋の白い天井、ではなく、赤色の——瞳だった。
「のぁっ!?!?」
僕はだらしなく声を上げながら、後ずさりをしようとするも、足の上に何かが乗っているのか、上手く体を動かすことができない。というより——。
「なんで僕、上半身裸なのよ」
着ていたシャツを、何故か脱いでいて、見事に裸体をさらけ出している。それに、胸を覆うように包帯が巻かれていて……。
「ッ!」
途端、頭の中に映像が、フラッシュバックのように流れ込んできた。
森。女の子。化け物。逃げる僕。化け物に胸を咲かれる僕。弓を持った少女が現れ、倒れる僕。その光景はどこか非現実的なものに見えるが、全て現実に起きた事なのだと理解する。
「そうか……僕、生きているんだ」
そう呟くと、意識もせず、それは自然と、頬をつたった。
しばらく、俯きながら、嗚咽することもなく涙を流す僕は、ふと、自分への視線を感じ、眼をゴシゴシと擦って、顔を上げると、ワインレッドの赤い瞳に、くりくりとした愛らしい眼。腰まで伸びた黒髪に、まだまだ幼さを感じさせる小柄な体系をした、小学低学年くらいの女の子が、僕の足の上に、ちょこんと座っていた。
「…………」
み、見られた! それはもうジックリと見られた! 泣いているところをがん見された!
「コホン! あ、あー。眼にゴミが〜」
とにかく、ごまかしてみる事にする。
「…………」
無言。
「や、やぁ。君は誰?」
「…………」
「あ、あの、どちら様でしょうか?」
あまりにも気まずい空気に、思わず、あきらかに自分よりも年下の女の子に対して敬語を使ってしまう。
「…………」
「あのー」
「…………」
無反応です、はい。女の子は、僕の問いかけに反応を示さず、ジッと僕を見つめているだけで……。ふふ、わかってるさ、やってやる。僕の頭の中にはこういう歳の子の対応がしっかりとマニュアル化してあるのだっ。
僕は喉の調子を窺いつつ、コホンと咳を一つして——。
「あはっ☆ 僕ミッ○ー☆ 君は誰なんだい?」
「…………」
「……あはっ☆ 僕はミッ○ーじゃないよ☆ 僕はグ〜○ィ〜。君はだれなんだぁい?」
「…………」
くっ、これはあのキャラクターをやれということか! いいだろう、やってやる、やってやるぞ僕は!
「コホン……。くぁwせdrftgyふじこlpッゲフ! ゲフッ!」
某アヒルのキャラクターの真似をしようとしたけど、うまくできない上に、喉に多大なダメージを負ってしまった。
僕は咳をしながら、涙眼で女の子の様子を窺うと——。
——スッ
彼女は眼を細めた。
あ、あれ? これ、どういう意味なんだ。なんで眼を細めたんだ? どことなく、哀れんだ眼をしている気が……。これは、はめられたのか僕は? そうだ、そうに違いない。きっと彼女は、無反応に対して僕がなにかアクションを起こすことを予想し、その上、僕の羞恥な行動を心の中でクスクスと笑っていたのだ。
——僕は、完全に、彼女の掌で遊ばれていた。
……なんて恐ろしい事だ。未だ未熟な少女が、成人まじかの男を弄んだのだ。恐ろしい。この子、恐ろしい子っ!
「ガクブルガクブル」
「………くろ」
「ガクブルガ…?」
「黒い……眼」
ビクビクと体を振るわせていると、女の子が、さっきまで閉ざしていた小さな口を少し開けた。そして僕は、そこから発せられた、小さいけれど、透き通った声を、確かに聞きとる。
「えと、瞳の事、かな? うん。そりゃ、黒いよ。僕は純粋なアジア人で、日本人だもの」
「アジアジン? ニホ、ンジン?」
この歳くらいの子には難しい言葉なのかな? 日本人という言葉くらいは知っていると思ったけど。というか、わからないという様子で、小さく首を傾げている彼女が、なんというか、非常に愛らしくて、思わず、僕は彼女の頭に手を乗せて、ナデナデ。
「ッ!?」
ビクリと肩を震わす彼女。恐がらせてしまったのかと思ったけれど、しばらく撫でていると、ジッとした様子で、素直に撫でられる。その間も、くりくりとした眼は相変わらず僕を見つめているわけで……。うむ。可愛いい。僕には妹がいないけれど、いたとしたら、こんな感じに撫でていたのだろうか。
「……恐く、ない?」
そう言った彼女の表情は、一見、今までと変わりなく無表情のようにも見えるけど、なにかを恐れているのか、どこか、怯えを含んでいるように見えた。
「恐く、ないの?」
ここでの恐くないというのは、彼女のことをいうのだろうか? だとしたら、なんともおかしな問いである。こんな愛らしい子を恐がる人なんていないだろう。
「うん、全然怖くないよ」
僕は彼女を安心させるように笑みを浮かべると、彼女はしばらく僕を見つめ、そして、眼を瞑った。そんな彼女の新しいリアクションに僕は興味しんしんといった感じで見ること数秒、彼女は再び眼を開けて——。
「……アイシャ」
そう、呟くように言葉を放った彼女は、無表情という仮面をはがして、綺麗に、そっと、微笑んだのだった。