コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- どうやら僕は異世界に来てしまったようです。 1-3 ( No.3 )
- 日時: 2010/07/31 21:38
- 名前: 村人A ◆UcTzrn55Fk (ID: mZiC8SdU)
どうやら僕は異世界に来てしまったようです。 1-3
「うわ、リアルで自分が胸を張って美少女だと言っている人を初めて見ましたよ。それに少女っていう歳でも——ずごっく!?」
「ははは、よし! そんなに痛い目にあいたいというんだな、コ、ウ、ハ、イ!」
「イダダ!! ちょ、ちょっとまっ!! せ、先輩! 仕事中ですって! ああっ、アイアンクローきまってます! なんかミシミシ軋む音が頭の中で響いているんですがぁぁ!」
◆◇◆◇◆◇
「そ、それじゃ先輩、お先に失礼します」
今も尚ズキズキとした痛みが走るこめかみを擦りながら先輩に声をかけるけど、反応はないままで、ただこちらを睨んでいる。
だけど、中身はどうあれ容姿がいい先輩にこうして見つめられ、もとい睨まれていても恥ずかしいわけでして。ぐっ……いかんぞこれは。このままでは先輩の魔力に毒されてしまうっ。ここは速やかに退散した方が良さそうだ。
「悠」
その一言に足を止める。
一瞬誰のことなのかわからなかったが、この場にいる人物で「悠」という名前は僕しかいないだろう。そして僕を呼んだのは間違いなく先輩。だけど、先輩は普段僕の事を「後輩」と呼んでいる。それはこのコンビニでアルバイトを始めた時からずっと変わらない呼び名で、名前で呼ぶことなんてほとんどない、というより今まで一度もなかった。
「な、なんでしょうか先輩? 珍しいですね、名前で呼ぶなんて」
「ああ。いや、あ、あれだ、うん。いつも頑張っている私の可愛い後輩にご褒美として名前で呼んだだけだ。これで後輩は私の奴隷から下僕に輝かしくランクアップしたわけだ。感謝しろよ?」
「いや、それほとんど変わらないですって先輩! それに僕いつから先輩の奴隷になったんですか」
「ええい、いちいちうるさい奴だなお前は! ランクを使い魔に落すぞ!」
「それはなんか微妙な位置づけですね……。っと、それじゃ、もう行きますよ」
「う、うむ。また明日も私の為に働くがいいぞ、悠」
「はい。また明日」
僕は背中にかけられた先輩の言葉を聞き流しながらそそくさに更衣室へと入った。
ああ、やばいやばい。今僕の顔を先輩に見られるわけにはいかない。こんな真っ赤になっているだろう顔を見られたら一日中からかわれるのは目に見えているわ。くそ、最後の最後であんなのがあるなんて聞いてないぞ! 不覚にもドキッとしたじゃないか! これは、いつか仕返しをしなければ僕の気が治まらん!
「まぁ……しかし、あんな素で慌てた先輩を見たのは初めてなんじゃないか?」
確かにあれはなんとも珍しい姿だったのだ。普段は何事も冷静に処理する先輩はまさにクールビューティーの称号に相応しい人物なのだが……それに、先輩。僕の下の名前を呼ぶ時に若干顔を赤くしないでくださいよ。
「こ、これは、嵐がくるかもしれないな」
外は雲一つない快晴。おまけに可愛い女性天気予報士が今日は晴れで洗濯日和だと言っていたのだが、先輩の慌てた姿と、理由がどうあれ僕の事を下の名前で呼んだ事。これは奇跡が二度起こったのも同然な事態なわけで……うわ、なんかブルッときたわ! いきなり空から槍が降ってきてもおかしくないぞ! 今日はこれ以上外に出ないほうがいいかもしれない。
「というわけで、さっさと我が城へと戻る事にしよう。そしてガンガンに冷えた部屋でギャルゲをやる!」
一つ気合を入れて、着替え終えた僕は外へと出ると、太陽の日差しだろうか、眩い光を浴びて僕は反射的に眼を閉じた。そして数秒後再び眼を開けると——
「…………へ?」
辺り一面に木々と草花が生えた、まさに森といえる光景が目の前に広がっていました。