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男性Yの異世界譚 2-1 ( No.6 )
日時: 2010/07/26 09:20
名前: 村人A ◆UcTzrn55Fk (ID: E/MH/oGD)


男性Yの異世界譚 2-1

 歩く。歩く。何のためにかって? そりゃここから出るために決まっているじゃないか!
あれから出口があるだろう方向へ歩いてきたけれど……。歩き出してから何十分、それとも何時間? 歩くも歩くも今だ出口が見つからずにいる。

「はぁ……」

 ほんと、このまま野垂れ死んでしまうんじゃないだろうか……。

 ふと、そんな事を思ってしまい、人気のない森の中で一人寂しく朽ちていく自分の姿を想像すること数秒、僕は慌てて思考を中断した。

「そんなのごめんだ! こんなところで死んでたまるか!」

 パシンと一つ頬を叩いて気合を入れ、すでに疲れが溜まった足を無理やり動かし、再度見えない出口へと向かって歩きだそうとした——瞬間。


短い悲鳴。


「っ!?」

 悲鳴なんてテレビのドラマやアニメぐらいでしか聞いたことのない僕は、その、本物の悲鳴を聞いてしばし呆気に取られた。

 ——今の悲鳴って、声からして女の人……だよね?

 男にしては高すぎるだろうとその悲鳴は女の人によるものだと決め、早速悲鳴が聞こえた方向へと走り出す。

だけど、数歩行った所で足を止めた。

 ——悲鳴が聞こえたという事は、誰かがピンチ、もしくは自身が危険な事にさらされているという事じゃないか? だとしたら、今僕がその人の方へいったら僕までもが危険な目に合うのではないだろうか。もし、命の危険にさらされることなら尚更。今の僕、というよりも僕に助けだせる程の力があるのかわからないし、ここは無闇に助けに行かなくてもいいんじゃないか?

 そんな事をつい考えてしまい、また溜息を吐く。

「だ、駄目だ。凄くネガティブになっているよ……。ここは……うん、深呼吸だ。深呼吸」

 数回深呼吸を繰り返すと、ほんの少しだけど、自分の中で熱していた何かが冷えていくのがわかった。

 ——そうだ。危険な状況に陥っている人がいるのを知っていて、知らぬ振りして見捨てるのは最悪な行為ではないだろうか? もし、死んでしまったら、いや、 実際に死なないかもしれないけど……だけど、この先生きていく中で「見捨てた」という事実が一生付きまとわってくるのは確で……そんな中、これから生きていくなんてたまったものじゃない。

「はぁ」

 自然と溜息が漏れた。それはあきらめという合図なのかもしれない。

「あー!」

 そして、僕は意味もなく声を上げ——。

「命に関わるような事じゃないように!」

 そう強く願いながら悲鳴の聞こえた方へと走りだした。