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- 男性Yの異世界譚 2-3 ( No.8 )
- 日時: 2010/07/26 09:23
- 名前: 村人A ◆UcTzrn55Fk (ID: E/MH/oGD)
男性Yの異世界譚 2-3
なんて予想外の事態であるのだろうか。今だに化け物と少女の距離は変わらなく、危険な位置に彼女はいるわけで。
僕は「くそっ」と舌打ちし、化け物に注意をはらいながら彼女の下へと駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「こ、腰が、抜けちゃった……みたいなんです」
そう言うやいなや、彼女の目からは涙が漏れ出す。さっきまでは離れていた所で彼女を見ていたが、近くでみると彼女は「美」がつくほどの少女だという事が分かった。
顔立ちは見事にバランスがとれており、否になる部分は一つもない。黒髪を肩まで伸ばし、前髪から覗く彼女の瞳はなぜか黒ではなく綺麗な蒼色をしていた。
その瞳は今や涙によって少し赤くはなっていたが、涙のおかげで潤んだ瞳はいっそう綺麗に見える。
それに、なんと言ったって、一番に眼がいくのは彼女の耳で……。なんか、すごく……尖ってますっ!
「あ、あの……」
「そ、それじゃ僕の背中に乗って!」
しばらく彼女の瞳に見とれていた自分に気が付き、照れ隠しに僕は、彼女に背を向けて背中に乗るように支持をした。
彼女は僕の言葉に小さく返事を返し、身を僕の背に預けようとしたその時——
『■■■■■■——!』
骨の髄まで響き渡るような獣の声。そう『アイツ』だ。僕の背に乗ろうと仕掛けた彼女は化け物の声に「ひっ」と悲鳴を上げ、両腕を僕の首に回し、思いっきり抱きしめ……いや、締め付けた。
「ぎぅ!?」
「あっ、す、すいません!」
慌てて力を緩める彼女に「大丈夫大丈夫、モウマンタイ」と言いつつ、開放感にさらされた首を摩りながら僕は大きく息を吸う。
や、やばかった。化け物以前に、彼女に堕とされてしまうところだった……いや、でもまぁ、その分幸せ気分も味わえたんですけどね!
「あの、大丈夫……ですか?」
「う、うん。大丈夫……だけど、大丈夫じゃないかも」
そう、先ほどまでもがいていた化け物は今や、目を充血させて僕達、いや、これは……ぼ、僕? ま、まさか、さっき当てたことに怒っているんじゃ……。
うう、なんでだ。僕、何か悪いことをしましたか? いや、当てちゃった事は確かに悪いけれど、それ以前に何で僕はこんなにも運が悪いのだろうか。ほんと、 今更って感じだけど、かなりついていないと思うんだ。突然気づいたら森にいるし、迷子になるわで。変な化け物に襲われる、といってもこれは自分のせいというかなんというか。ともかく、なんか僕って、非常についていないぞ……。
「ど、どうしましょう?」
若干鬱になりかけた僕に彼女が声をかける。
そうだ、今は落ち込んでいる場合ではなく、この危機的現状をどうするか考えよう。
彼女を背負っている今、アイツから逃げることは無理だろう。それに後ろを向いて襲われたりしたら背負っている彼女が怪我をしてしまう可能性がある。だがこの状態でアイツに襲われても僕が怪我をしてしまうわけで……。
——あれ? これって、つんでね?
打開する術がなく頭を悩ます僕を無視して、『■■■■■■■——ッ』と化け物が僕達に迫ってきた。背負っている彼女は悲鳴を上げ、僕はどうする事もなく、ただ迫りくる化け物を眺めるだけ。
今まで平凡な生き方をしてきた僕は今まさに見たこともない化け物に殺されようとしていた。
ほんと、彼女だけでも逃がしたかったのだが、僕が殺された後彼女も殺されてしまうだろう。
何もできない自分に嫌気がさす。結局助けに来たものの僕が殺されて彼女も殺されるという、バットエンドの中でも一番最悪な終わり方だ……。