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男性Yの異世界譚 2-4 ( No.9 )
日時: 2010/07/26 23:51
名前: 村人A ◆UcTzrn55Fk (ID: 13UaxE3Z)

男性Yの異世界譚 2-4

 ——いや、まだだ。まだ僕は死んではいない。彼女もそうだ。両方死ぬなんて駄目だ。どちらかが犠牲になれば片方は生きられるかもしれない。
となれば犠牲になるとしたら僕だ。幸いアイツも僕狙いだろうし、へたに彼女を狙うわけでもないだろう。だったら、今僕がすべき事は——

「ごめん」

 僕は彼女にこれからすることを謝罪した。

「へっ?」

 今の状況とはそぐわない、呆気にとられた声を上げる彼女を無視して、僕は思いっきり横へと投げ飛ばす。

 「きゃぁっ」と可愛らしい小さな悲鳴が聞こえると同時に、胸の辺にお湯をかけたような熱を感じる。よくよくみると、宙には赤い、僕の血が飛沫のように散っている。化け物が、僕の胸を裂いたのだ。

「ぐっ!!」

 一瞬意識を手放しそうになるけど、なんとか気を保つことができた。

 ——大丈夫。僕はまだ生きている。

 暗示をかけるかのように自分に言い聞かせ、僕は地面にころがる、先ほど投げた物を手に取り、化け物に向かって、それを押し付けるように殴りかかった。
 こういう事に関しては運が良いのか、避けられる事もなく、すでに黄色くペイントされた化け物の顔面へと命中した。

『■■■■■■———ッ!!』

 化け物は悲鳴を上げ、鼻先を地面に擦り付けるようにしてもがき始める。

「逃げてっ」

 地面へと尻餅をついている彼女に声をかけると、彼女はさっきまで上がらなかった腰を軽々しく上げて立ち上がった。立ち上がることができた彼女は「た、立てました!」と笑みを浮かべる。だが、今は笑みを浮かべるよりも逃げることだ。

「今のうちに逃げろっ!」

「あ、あなたはどうするんですっ!? 一緒に逃げないんですか!?」

「僕も逃げるけど今の状態じゃ足手まといになる。君は全力で走って逃げてっ」

「で、でも「いいからっ!!」っ!」

彼女は僕の叫びに一瞬戸惑いを見せるが、意を決したように「このご恩は必ず返します!」と、ぺこりとお辞儀をして、走っていった。

「さ、てと……僕も、逃げる、かな」

 未だ化け物は地面を転げまわっていて、思っているよりも時間を稼げるかもしれない。