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Re: 夏の日、残像 ( No.1 )
日時: 2010/07/25 20:34
名前: 鎌イタチ ◆jWU.FEbXOc (ID: IYQ2IBUX)

第一章 【稲光】

第一話

照りつける日差し。蝉の鳴き声。駅のホームで陽炎がうねる。二段飛ばしで階段を駆け下り、手すりを強く握って90度回転。
「ジャンプ!」
停車中の各駅停車の列車に向かって飛ぶように走る。
「大変危険ですので、列車への駆け込み乗車はお止め下さい。」
ターミナル駅のホームに流れるアナウンス。閉まる列車のドア。僕を置いて列車は信州の田舎町へ走り出す。
「間に合わなかったか…」
別に急いでいるわけでもないけど、この電車に乗れなかったのは僕にとって少々痛い。
急いでいる、というよりは早くその目的地に行きたいからなんだけど。
目的地はもうすぐ。東京からはるばる電車を四つか五つくらいか乗り換えてきた、
残りの乗り換えは今まで乗ってきた急行列車から各駅停車に乗り換えて一駅。
手に持った冷たいファンタグレープのペットボトルの蓋を開け、ホームの小さいベンチに座り込む。
僕のほかにホームにいるのは、大きなリュックを背負ったガキと俗に言う『ホームレス』にしか見えないような汚いおっさんだけだ。

ポケットからケータイを取り出すが、特に今すべきこともないのでデータフォルダの写真を送ってみる。
ある写真で手が止まる。僕と少し年上に見える女の子が写っている。
「はぁ…」
僕だけじゃないよな、こんな感じ。やっと何気なく話しかけることができるようになって、一緒に写真を撮ってくれたけど
自分から行動に移すことはない。というかそんなことは一生分の勇気を振り絞ってもまだ僕にはMPが足りない一世一代の大技だ。
世間ではこれを草食系男子っていうのかな。うん、僕だけじゃないよな?
そんな自問自答を繰り返す暇な中二の夏休みの僕。なんかかっこいいよな。うん。

「おうおうおう、彼女か?…いや片思いだな。そうだろアンちゃん?」
「……っつ」
びっくりして変な声が出たような気がするが、それより問題なのはこの『ガキ』だ。見たところ小学校四年、三年か。
そのくらいにしか見えないマセガキが結構な大声で話しかけてきた。
ホームのホームレスさんもこっちを向いてきた。まったくなんだこのガキは。
たくさんの行動パターンが僕の脳裏をよぎるが、その中でもっとも無難な手と思われるパターンを選択。
すぐ行動に移した。わかりやすく言うと『無視』か。そしてその場から立ち去る。よしこれがこの場面ではベターな手だな。
幸いこの駅の長いホームでは端から端まで200メートルほどある。
「まったく…アンちゃんシャイだなあ…」
ったくこのガキは何なんだか。すると突然階段を急いで駆け下りてくる足たち。それに気づいて驚くガキ。
こっちに向かってダッシュしてきた。キオスクの裏側に滑り込む。あっけにとられる僕にガキが小さい声で何か言う。
「……」
聞こえないぞ。近づいていって身をかがめガキの顔の高さに合わせてまた耳を澄ませてみる。
「今ホームに来た二人組みのスーツのやつら、あいつらから俺を匿ってくんねぇか?」
まったくこのガキは…。どいういことだよ。ちなみに僕とガキが出会ってから約二分の出来事である。