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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 一瞬またたき。 ( No.13 )
- 日時: 2010/07/28 17:12
- 名前: 蒼莉 (ID: ykFYs.DE)
5
(つづき)
幼いながらに、
何が起こっていたのか
分かっていたのだろう。
慌てる母と
冷静に物事を整理する父。
車の助手席に慌てふためいている
お母さんの膝の上に乗って
ただ涙をこぼすだけの私。
車はただ一人で
ブウンブウンと音をたてて
過ぎていく人々や
自転車に乗った子供達を
どんどん追い抜かしていく。
車の窓ガラスが
私の視界すべてに
貼られているような気がして
私、一人だけこの世界に
孤立してしまったような感覚になって
私は自分の心の
青い青い渦に
ズブン、と
埋もれた。
「かづ」
優しい声。
温かい母の手のぬくもりが
私の髪に触れていた。
いつのまにか、
眠っていたようだった。
まだ少し触っていてほしい、と
私は身をその手に
擦り寄せた。
「あなたはここで、
待ってなさい」
一瞬、何を待っていればいいか
分からなかった。
けど視界がだんだんと
はっきりするにつれ
私は眠る前に何があったか
頭にぽっかりと、
浮かび上がってきた。
「…冬花…」
ぽつり、と
その小さい唇から
愛する弟の名が
呟かれた。
その瞬間
私の頭の中に
冬花のあの柔らかなこもれびの笑顔が
シャットアウトされた。
けれどその笑顔は
ガラスがパリン、と割れるように
次々と割れ、
私の頭から
、いなくなった。
「…冬、花ぁ…」
堰を切ったように
私のきれいな漆黒の瞳から
ぼろぼろと雫がこぼれおちた。
車の窓ガラスから射す
あついあつい太陽の光が
私の心を焦がして
私の心はギュウ…ッ、と
自分を守りこむように
縮み、丸くなった。
「かづちゃん、
冬花ちゃんは助かるから大丈夫よ。
だから、大人しくここで待っていてね」
辛かった。
優しかった。
その言葉は、
優しく発せられているはずなのに
私の心を締め付け
私の喉をも
ギュウ、と
締め付けた。
冬花に会いたかった。
あの優しい笑顔で
私の心を締め付けている
鎖を、
はやく解いてほしかった。
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