コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 一瞬またたき。 ( No.20 )
- 日時: 2010/08/01 20:37
- 名前: 蒼莉 (ID: ykFYs.DE)
7.思い出 a memory
頬を伝う雫の冷たさか
それとも車の中にいても
聞こえる声のせいか
私は閉じていた瞼を
ゆっくりと開けた。
車の独特の匂いが鼻を擽って
私は鼻をゴシゴシ、と擦る。
すると同時に濡れていた頬に気づき
私は腕の服の袖で
涙を拭った。
——冬花…。
胸がつん、と痛くなって
私は見覚えのない痛みに
胸をギュ、と抑えた。
そして皺ができたその場所を
私はしばらく、眺めていた。
「——…〜、ったのかしら、——で」
車の外から、聞き覚えのある声が
聞こえてきて、
私はハッ、と顔をあげた。
少し曇った窓ガラスの向こうを
見つめると、そこには大好きな姿が
二つあった。
私は思わずドアを開けて二人に
会いにいこうと思い
ドアに手をかかえた——
…あかなかった。
「…やっぱり、あのままでは
いけなかったのよ
……やっぱり…、そのまま子供達を
交換して——」
「そのまま交換できたと思うか!?」
——びくっ
初めて聞くお父さんの強い声に
私の心と体が
強く震えた。
「俺は夏月を自分の娘だと思い
育てようと思ったんだ。
いまさら——、…いや、あのとき
そんな心に決めた誓いを、
……そんな、簡単に…」
「咲斗…」
言っている意味が、分からなかった。
——私を本当の娘だと思って…?
私は、
本当の娘じゃ、
ないの?
「…けどこれから、隠しきれると思うの?
…これから、二人は大きくなって、
大切な人もできて…
っ夏月なんか、子供も産むのよ!?
それで、隠し切れると……」
「俺だって、信じたくないよ、
自分の子供と、他人の子供を
育て間違えるなんて。」
"…夏は、思い出がいっぱいある"
"……そうなの?"
"…ああ。まあ、体弱かったから
人並み以下だけど"
"…ああ、よく倒れたわね。
男のくせに、なさけない"
"うるせえな、しょうがねえだろ
生まれつきなんだから"
"ふふっ、……そうね"
思い出。
夏の、思い出。
風を頼りに、あなたを探しにいったこと。
あなたはジッ、と空を見上げながら
私を待っていたわ。
…思い出。
匂いを頼りに、あなたを探しにいったこと。
あなたはひとりで、私の喜ぶ顔を、
青広がる海の浜で
探していたわ。
嬉しかった、
嬉しかった。
私の思い出は、
冬花、あなた一色だった。
あの、
真実をしった夏も、
あなたのことだった。