コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 一瞬またたき。 ( No.28 )
- 日時: 2010/08/13 21:04
- 名前: 蒼莉 (ID: 3lsZJd9S)
12、
いつも、
…いつも。
私はいつだって、温もりを求めていた。
優しさという温もりを。
この、小さな小さな私の冷たい心を
芯まで温めてくれる、温もり、を。
もうすぐ消えてしまいそうなこの存在を、
知っていてくれる温もりを。
◇
「……のぞ、む」
ジイン、と響くような静寂の中で
私の囁くような小さい声が
フツリ、と浮かんだ。
私の上半身を包んでいるこの温もりを、
どう反抗していいかわからなくて
私はただ、頬を赤く染めることしかできなかった。
「抱きしめられんの、はじめてっしょ?」
いつもよりずっと近くにいる声が、
私の耳にいつもよりずっと早く届いて
いつもよりずっと速く、
ドク、ドク、と鼓動が心臓を流れた。
つま先から頭の先まで、熱湯が血液にまじって
流れていくようで
私は大きく開かれた目から
熱い熱い雫が
零れ落ちそうだった。
「……のぞむ、何してんの」
震える声帯から
やっと絞り出すようにだした声は
自分で聞いてみても
情けなく、さびしい声だった。
「ん、何してんのって、ハグしてるの。だめ?」
だめ、って……
いつもと変わりない望の喋り方に、
私は動揺と羞恥で気がおかしくなりそうだった。
いつまでも自分を抱きしめている望が
だんだんムカついてきて、
私は思いきり望のややガッシリした胸板を
押し返した。
「——わ、」
すると望は、思ったよりもアッサリ体を戻して、
コンクリートの地面をしっかりと踏んだ。
そして私の顔をゆっくりと覗き込むと、
その整った顔をふにゃり、と歪ませた。
——ドキ…ッ
そんな効果音がでそうなほど
私の鼓動が波をたてた。
「顔真っ赤。それに目もウルウル。
そんな顔、野郎には見しちゃダメだよ。
とくに、弟クン。」
そんで、
——『返事待ってるから』
ぼーっとしている私の頭に
彼の言った長い言葉の羅列が並んで
それを理解する間もなく
望は”それ”を私の耳に囁くと
夕焼けのもと、私の視界から消えて行った。
「のぞ、む」
残された私の影は
残された私の心と共に
ゆらゆらと揺れている。