コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 一瞬またたき。 ( No.3 )
日時: 2010/07/28 17:39
名前: 蒼莉 (ID: ykFYs.DE)

2.夏風 summer a wind




知っていた。


私は、



前から、




ずーっと。



知っていたんだ。













私は双子だった。

南 冬花 みなみ とうか と

南 夏月 みなみ かづき という双子の

片割れ、夏月だった。

男みたいな名前でしょ、

よく言われるから、安心して。

実はお母さんが元々決めといてあった名前を

男女間違えてつけちゃったんだって。

意味、わかるかしら?

それで、

ご想像の通り、この双子は男女の二卵性双生児。

私が先に出てきた方で、

冬花が次に出てきた方だった。

つまり、私が姉で

冬花が弟。

ちなみに、今となりにいる奴が

冬花。

名前にふさわしくない

カッコいい顔と

カッコいい体を持った

自慢の弟。

それで私は

自分で言うのも何だけど

弟につり合った容姿をしてる。

よく、日本人形みたい、って言われるけど。

言われて、嬉しくはないわね。

だって、日本人形って怖いじゃない。



冬花は、もう一つの双子に恋をしていた。

水上 望 みなかみ のぞむ と

水上 祈 みなかみ いのり という双子の

祈の方に。

ちなみにこの双子も

男女の二卵生で

望が男、祈が女。

ちなみのちなみを言うと

望が兄で

祈が妹、ね。

水上双子とは、高校が一緒で、

望と私が、祈と冬花が、

今は同じクラス。

ちなみに、今私たち高校2年生。

高校で一番、敏感なときよ。

どうやら冬花は高校1年のとき

隣の席だった祈チャンに

一目ぼれしたらしい。

それで告白して、

OKもらって、

…浮かれて、

それで、

…それで、




「祈ちゃん、いまごろ泣いてるんじゃない?」



ざあ…

と揺れる青を私はぼんやりと眺めながら

口からシャボン玉みたいに

ぽつりとその言葉をつぐんだ。




「……」




冬花から沈黙が流れて、

私は儚げに笑った。

言葉のシャボン玉はふわふわ天に昇って

パチン、とわれた。




「…ごめんね」




夏の風は、

私の頬を優しく撫でて

どこかにスルリ、と飛んで行ってしまう。

微妙な温度の温もりを残して、

私の髪に、いたずらをして。

隣の温度を見失ってしまうくらい、

その存在は、

、優しい。




「…何か、あったのか」




低いうねりが私の右肩を揺らす。

静かに発せられたその言葉は、

私を静かに苦しめた。




「…別に、何も」

「何もなかったら、んなことするかよ…」




左足がほんのり赤くなっている。

足首には赤い掠り傷。

私は靴をはいてなくて、

白い肌を、太陽にさらけだしていた。

ふう、と私は息を吐いて、

青い青い空を仰ぐ。




「行ってあげて、祈ちゃんのとこ。」




掠れた声が彼の肩にふれて、

彼はビクッと一瞬肩を揺らした。

彼は静かに瞼を閉じて、

たまっていた鉛を吐きだした。





「バカ、だろ」

「ええ、バカよ。私は、バカ。」



自分で言ってみて、笑える。

何だか、胸の中を高揚感がしめた。

何故だか幸せ、って感じられて

口から優しい息が

ふう…、と出た。

その息は夏のじれったい空気に溶けて

私の目の前で

消えていった。




「…けどね、冬花。」




あなたも、十分

バカなのよ。












私は知っていた。



これからの、二人の運命を。




私は知らなかった。





これからの四人の運命を。