コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 一瞬またたき。 ( No.8 )
- 日時: 2010/07/28 17:48
- 名前: 蒼莉 (ID: ykFYs.DE)
3.淡い風 light a wind
好きだった。
おかしいことだとは、気づいていた。
他の誰よりも、気づいていた。
自分が一番、辛かった。
俺は双子として生まれた。
南 夏月と
南 冬花という双子の
冬花 とうか の方。
女みてえな名前だった。
小学生んときは、ガキ達にからかわれたりした。
けど、そん時は姉ちゃん……夏月が、
正義のヒーローぶって助けて…
…は、くれなかった。
夏月はいじられていた俺を無視し、
必要限以上は俺にかかわろうとしなかった。
それは、家でも。
親は毎朝、毎昼、毎晩、
仕事に明け暮れ、
俺達に構ってくれたことはなかった。
そんな中、家事をしていたのは
どこの部活にも所属していなかった
夏月だった。
夏月は飯を作ると机におき、
いつの間にか2階の自分の部屋に
上がっていってしまう。
そして掃除や洗濯はいつの間にか済ませ、
いつも部活から帰った俺を温かく待っていてくれた、
綺麗な家。
…俺はそんな弟に
何も愛情を与えていないように見せる姉に
憧れの念を持っていたのは確かだった。
それに、何の愛情も与えていないように見せる姉は
時々、俺にキーホルダーを作っては
プレゼントしてきた。
そこにはいつも、
「I LOVE YOU」というキザな刺繍が
刻まれていて
そのキーホルダーから姉の愛情を
受け取っていたともいえる。
そんな姉に
恋心を抱き始めたのは
いつ頃だろうか。
多分、中学に入ってまもない頃だったと思う。
夏月は端正な顔立ちを
自分で言うのも何だが
俺とともに持って生まれてきた。
だから夏月は中学に入学してから
同時に、モテはじめた。
毎日ラブレターをもらっていたのは
夏月の靴入れを通ればわかることだし、
クラスメイトの
「隣のクラスの冬花の姉ちゃんが
すげえ美人なんだって」
という噂が耳に入るのも
日常茶飯事だった。
俺はそのことに、
何も思うことは特になかったが、
さすが俺の姉ちゃん、
という俺様な考えだけは、
持ち合わせていた。
そんな中学1年生の、夏。
「付き合って下さい」
そんなこの地球上
どこにでも転がっていそうで
けど転がっていない
そんな台詞が
耳に風として入ってきた。
俺はその時、
掃除当番のゴミ捨てで
校庭の側をたまたま通ったときだった。
俺はああ、告白してるんだ。
と特に興味も示さずに
夏の風に吹かれ、
重いゴミ箱を抱えながら
裏庭を歩いていた。
そのとき、
聞きなれた彼女の声を
耳に入れたとたん
俺の中で何かが弾けたのは
知っていた。
ただ何が弾けたのか、
一瞬分からなかっただけだ。
「ごめんなさい。
私、たった一人の弟がいるの。
しかも双子のね。
私はその弟が自立して
自分でたてるようになるまで
彼氏はつくらないつもりなのよ。
だから、」
ひゅう…
夏の、独特の匂いが
俺の鼻を擽った瞬間だった。
俺は大きく目を見開いて
何か一つ、大きな謎が
解けた感じだった。
俺は全身で、
強い風をうけた。
夏の匂い漂う、
切ない風を。